民間療法や自由診療の免疫療法は眉唾もの
爪をもんだり、玄米を食べたり、体を温めたり、サプリメントを摂取したりすることで「免疫力がアップして、がんが治る!」と主張する民間療法はたくさんありますが、その効果は証明されていません。はっきり言えば効きません。そんなことくらいで、がんに対する免疫が働けば世話はないでしょう。
また、効果のほどのわからない保険適用外の免疫療法を、自費診療で行っているクリニックも多々あります。保険適用外でかなり高額ですが、医療については値段が高いからといって効果があるとは限りません。そもそも効果があるというはっきりした証拠がある治療法は「標準医療」として採用されて、保険適用になるからです。しかし、わらをもつかむ思いでお金を払う患者さんはたくさんいますので、自由診療クリニックのビジネスは成立します。
本来であれば、きちんと臨床試験を行って効果の有無をはっきりさせてから治療を行うべきです。効果が示されたなら、標準医療として採用され、より多くの患者さんの命を救うことができます。反対に、効果がなければ患者さんは無駄な治療を受けずに済むのです。ところが「効果がない」という結論が出てしまえば、それ以上もうけることができなくなるので、自由診療クリニックにとっては損です。そういうわけで自由診療クリニックの多くは臨床試験には消極的です。
長く研究されてきたものの、その進歩は遅く…
こうした民間療法や免疫療法がビジネスとして流行したせいで、「免疫力」という言葉はすっかりうさんくさくなりました。「タイトルに、免疫力という言葉が入っている本や記事は疑ってかかったほうがいい」と言う医師もいるくらいです。
でも、理論的には、がんを攻撃する免疫能を高めれば、がんを治せるはずです。治療をしていないのに自然にがんが消える「自然退縮」という現象があるのは前回の記事の通りで、19世紀末にウィリアム・コーリー医師が試みた「コーリーの毒」も免疫療法の一種とされています。自然退縮に免疫が関係していることはわかっていたので、がんに対する免疫療法は長らく研究されてきました。がんと戦う免疫細胞を取り出して活性化させて体に戻したり、がん細胞が持つ抗原をワクチンのように投与したり、さまざまな免疫療法が試みられましたが、あまりうまくいきませんでした。
私自身も大学院生だった頃、ほんの少しだけがん免疫療法の研究に協力したことがあります。がんワクチンと活性化免疫細胞療法のハイブリッドで、がん抗原のうちの免疫細胞がよく認識する部分だけを人工的に合成し、免疫細胞に振りかけて活性化させるというものでした。結果はというと、確か第一相試験にすらたどり着かなったと記憶しています。