「がんが消えた!」体験談はほぼウソ
世の中には、各種がんの標準医療以外に「がんが消える」と称する食事法や治療法が数多くあります。野菜ジュースで、玄米菜食で、塩で、精神統一で、温熱療法で……さまざまな方法でがんが消えたと、WEBサイトや書籍、雑誌、商品の通販ページなどに書かれています。こんなに種類があるのかと驚くほどです。がんが消える食事法がない理由は前回の記事の通りですが、治療法でも同じこと。標準医療以外のいわゆる代替療法で、きちんとした臨床試験で効果が証明されたものはありません。
がん治療は副作用や合併症を伴うことがありますから、自然にがんを消すことができれば、それに越したことはありません。患者さんのみならず、ご家族も、医師も看護師もみんながそう思うでしょう。私だってそう思います。
でも、がんが消えたとする体験談を詳しく検討すると、併用していた標準医療が効いたと考えられたり、もともとのがんという診断が疑わしかったり(別の病気だったのを誤診)、がんが消えたという根拠が不明確だったり(実際には消えていない)、ひどい場合は最初から捏造だったりすることさえあります。
おおむね数万人に1人のがんが自然退縮する
とはいえ、「がんが消えた」という体験談のすべてが例外なく信頼できないわけではありません。「自然退縮」といって、とくに治療をしていないのに、がんが小さくなったり、消えてしまったりすることがあるからです。
それぞれの研究によっても差はありますが、おおむね数万人に1人のがんが自然退縮するとされています。いずれにせよきわめてまれで、正確な数字はわかりません。どのようながんでも自然退縮は起こることがありますが、がんの種類によって報告数には差があり、腎細胞がんや悪性黒色腫や神経芽細胞腫で起こりやすいようです。がんが消えたのちに再発することもありますが、そのまま治ってしまうこともあります。
このように自然にがんが消えることもあると知っておくと、「保険診療外の何らかの治療を行ったあとにがんが消えたという体験談」を聞いたとき、「その治療には効果があるに違いない」という誤った結論に飛びつかずに済みます。その治療が効いたのではなく、自然に消えてしまっただけかもしれません。特定の治療法に効果があることを証明するには、その治療法を行った患者さんと、その治療を行わなかった(もしくは別の治療を行った)患者さんとを比較する臨床試験が必要になります。そうした臨床試験による評価の結果、現時点で最善の治療法だと証明されているのが「標準医療」なのです。