毎年繰り返される「官製春闘」という“愚行“

安倍政権、菅政権、そして岸田政権と、歴代政権は日本人の給料を上げるために、なにをしてきただろうか?

驚くべきことに、首相による賃上げの「お願い」が毎年繰り返されてきた。日本独特の労使交渉「春闘」の時期になると、日本の首相は労働組合に代わって、経営側に賃上げを要求するのだ。この「官製春闘」は、2013年に当時の安倍晋三首相が始めて以来、今日まで続いてきた。

2023年正月、岸田文雄首相は伊勢神宮参拝後の年頭記者会見で、「今年の春闘はインフレ率を超える賃上げの実現をお願いしたい」と述べ、賃上げを実施した企業の法人税を優遇する措置を打ち出した。

前記したように、これはとんでもない“愚行”である。

岸田首相は、就任時に「新しい資本主義」を打ち出したが、その新しい資本主義について、こう説明した。

「成長と分配の好循環による持続可能な経済を実現するのが、その要です」
「その第一は、所得の向上につながる賃上げです。春には、春闘があります。近年、賃上げ率の低下傾向が続いていますが、このトレンドを一気に反転させ、新しい資本主義の時代にふさわしい賃上げが実現することを期待します」

春闘春闘
写真=iStock.com/Yusuke Ide
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この発言で、首相が資本主義をまったく理解していないことがわかる。なぜなら、賃金は市場によって決まるもので、それが資本主義市場経済だからだ。

企業の賃上げは「首相の一声」のおかげではない

2023年の春闘は、インフレが亢進したため、大手企業は例年以上の賃上げに踏み切った。

たとえば、「ユニクロ」を運営するファーストリテイリングは、3月から正社員約8400人の賃金を最大で40%引き上げた。任天堂は、4月から正社員のほか嘱託社員やアルバイトも含めて全社員の基本給を10%引き上げた。そのほか、野村証券、三井住友銀行などの金融機関も異例の賃上げに踏み切った。

しかし、これは、首相が要請したからではない。たとえばユニクロの広報担当者は、柳井正会長兼社長の考えとして次のようなコメントを出した。

「報酬改定は成長戦略の一環として準備してきた。よって政府の賃上げ要請などとは無関係」
「世界水準の仕事をお願いするなら、母国市場である日本の報酬も世界水準にしなければならない」

首相が要請すれば賃金が上がるなら、企業はみな国営企業になってしまい、市場経済は成り立たなくなってしまう。