実家から兄を追い出し、更地にすることを目指す
大木さんは、ゴミ屋敷状態となり、倒壊の恐れがある実家から兄を追い出し、更地にすることを目指すことにした。それに断固反対の兄と調停に踏み切ることにしたが、今年11月に不成立となり、現在審議中だ。
「母は、私に生きざまを教えてくれました。人を笑わすことが好きな母だったので、私は心から介護が楽しいと感じていました。また、ケアマネジャーや訪問医療、デイサービスなど、人にも恵まれました。合わない介護会社やサービスは早めに見切りをつけ、合うものを選び取っていったことも良かったと思っています」
大木さんには10年以上交際を続けてきたパートナーがいる。そのパートナーも、大木さんにとって力強い味方となった。2人は兄とのゴタゴタが片付いたら、結婚するつもりだ。
大木さんの場合、補聴器営業の仕事を介護離職したが、その後も何とか起業して自分のペースで働き続けられたことも、被介護者と介護者が適度に距離を保ち続けられる要因となって良かったのかもしれない。
「私のように、介護をしながら起業する人はまれだと思いますが、ちょうどコロナで社会が停滞していたときで、仕事がうまくいかなくても言い訳ができましたし、コロナの補助金などもあって助かりました。現在介護で苦しんでいるみなさんも、自分のペースでお金を稼げるようにできないものかと思い、そのサポートができたらと思っています」
大木さんは補聴器店を経営する中で、自分の介護経験を活かし、聴覚ケアの早期介入についての活動を始めている。
「親の介護を全くしないで普通に生活していた人が、血縁関係があるだけで財産は平等に分配しろというのは理不尽です。納骨や一周忌を終える前に、心の癒える間もなく、容赦なくお金を奪いに襲い掛かってくる“ハゲタカ親族”は現実に存在します。失業保険のように、介護離職をした人には、再就職できるまでサポートできないものでしょうか。在宅介護をしている人への支援があったらいいなぁ、と卒業した今、私はそう思っています」
介護が終わったと思ったら、きょうだいとの相続問題に突入するケースは少なくない。相続問題を避ける一番の方法は、親が元気なうちに家族間で話し合いを重ねておくことだろう。