介護事故
2015年12月。老健のデイサービスに通っていた母親は、リハビリ中に転倒。
「施設から電話が入ったときは、大したことがないようなことを言われたのですが、夕方、仕事から帰宅して母を見ると、普通に使えていた左手でも洋服のボタンを緩められず、ベッドで寝ている時も硬直して身動き一つ取れない状況になっていました」
大木さんは慌てて救急車を呼び、搬送先の病院で、左側の大腿骨を骨折していることがわかった。母親は、脳梗塞の後遺症の片麻痺で右手が上げられず、左手はつえをついていたにもかかわらず、「あれは、クリの木ね」と言って右手で指さして転倒したと施設は説明。
「転倒後、施設側は、母がトイレ誘導時に立てない状態にあったので、リハビリパンツを着用し、車いすでトイレ介助をしたとのことですが、立てなかった時点でなぜ施設内に医師がいるにもかかわらず診せなかったのか。また、15時のおやつの際に車いすに移乗するとき、右ひざを曲げると痛みの訴えが聞かれたとのことですが、なぜこの時の右膝の痛みの訴えから、医師に診せる必要があると判断しなかったのか……。疑問でなりません」
施設に不信感を持った大木さんは、弁護士に相談。介護事故として協議を行うことに。さらに母親が大腿骨を骨折して入院した翌日の夜、明日の手術によって意識障害の発症や亡くなることも考えられるため、大木さんは兄を病院へ呼ぶ。
するとあろうことか兄は、2005年に亡くなった父親の保険金が自分のものにならなかった不満を、母親が泣いて「もう勘弁してくれ」と言うまで枕元で語り続けた。
「父親の保険金は、受取人が母に指定されていたため、受取人である母の固有財産になります。兄は、父が亡くなった翌年、それを知らずに私と母を相手取り、調停を起こしましたが、後からそれを知って自分で取り下げました。それなのに、『なぜまた母が大腿骨を骨折して大変なときに、古い話を掘り返すのだろう?』と信じられない思いでした」
父親の保険金は、父親が保証人になっていた大木さんのマンションの住宅ローンの返済に充てたのだが、それが兄は面白くなかったようだ。
その後、母親は兄のことを「情けない」と繰り返し口にし、看護師さんに、兄が来ても通さないようお願いしていた。介護事故を起こした施設を相手取った調停は、2年ほどかけてようやく賠償金を受け取ることで解決した。