留学先に早稲田大学を選ぶ歴史的な背景

日本で最も中国人留学生が多い大学は早稲田大学だ。

20年5月、中国出身(香港・台湾を除く)留学生受け入れ人数のランキングで1位が早稲田だった(2位は東京大学、3位は立命館大学=日本学生支援機構の調べ)。

早稲田大学のホームページによると、21年の中国人留学生数は3322人で、全留学生のおよそ半数。学部、大学院ともに人数は増え続けている。なぜ早稲田はこれほど中国人に人気があるのか。

以前から中国メディアで報道されてきたのは、早稲田と中国の深いつながりだ。

明治時代に清国から官費留学生13人を受け入れ、日本語教育を行い、1913(大正2)年、のちに中国共産党の創設メンバーとなる李大釗(りだいしょう)が入学した。同じく創設メンバーで、初代総書記に選出された陳独秀も早稲田で学んだ。

そうした経緯もあり、98年には江沢民、08年には胡錦濤という二人の国家主席が来日した際は、わざわざ早稲田を訪問。中国での知名度は急激に上がった。

中国の歴史教科書では日本の明治維新について教えるが、明治政府で活躍したのが早稲田の創始者、大隈重信であり、そこで学んだ留学生が中国共産党を創設したことは、中国人に強く印象づけられている。

人口減少で偏差値を維持するのが難しい

早稲田について、私の知人関係でいえば、アジア太平洋研究科(大学院)の出身者が多い。多くは女性で、修了後は日本のメディアや商社などに就職した。

数年前に同大学院で学んだ知人の中国人は「早稲田は自由な雰囲気があって好き。メディア出身のリベラルな先生が中国での取材体験などを話してくれて、中国人の先生とは違う視点を学ぶことができました」と話していた。

早稲田自体も過去十数年間、中国人留学生の獲得に熱心に取り組んできた。2015年に同校を取材した際、応じてくれた国際部東アジア部門長の江正殷氏は「私たちは長期計画で努力を積み重ねてきました。今の早稲田の偏差値を絶対に維持しなければならないと考えているからです」と強調していた。

22年秋に取材を申し込み、久しぶりに同校を訪れると、江氏から同じ答えが返ってきた。90年代前半、早稲田の受験者数は約18万人とピークだったが、21年は約10万人と半減した。しかし合格者数は同じだ。

「今後、日本の18歳人口がますます減少すれば、それだけ優秀な学生の獲得は難しくなり、早稲田の偏差値を維持しにくくなると思います」(江氏)

そのため、世界の大学とダブルディグリー制度を実施するなどあらゆる方策を講じ、05年からは中国各地のトップランクの高校と指定校制度を締結している。各校から日本に留学を希望する学生を推薦してもらう仕組みだ。コロナ前は担当者が頻繁に中国に行き、説明会を実施したが、取材時はオンラインで開催していると話していた。