助詞の「は」を加えれば正しい表現になる
平成16(2004)年度の文化庁の「国語に関する世論調査」でも、「御乗車できません」について「正しく使われていると思う」と答えた人は、59%でした。
「利用する」「参加する」「乗車する」などの動詞は、「ご(お)~する/できる」という謙譲語の形では、一般的には使われません。それに対して、「説明する」「案内する」などの動詞は、「(私が)ご説明する/できる」「(私が)ご案内する/できる」という謙譲語の形で使われます。
「説明する」「案内する」は、「だれに対して」という、その動作が及ぶ先の相手がいる動詞ですが、「利用する」「参加する」「乗車する」は、その動作が及ぶ先の相手がいないタイプの動詞だという違いがあります。こうした動詞の性質の違いが、用法の違いにもつながっています。
「ご利用する/できる」はそもそも謙譲語として使われないので、「ご利用できます」のように尊敬語として使ってしまっても、誤用とは感じられにくいのだと考えられます。今後、使われ続ける可能性もありますが、敬語の「誤用」であることには変わりないため、放送で使うことばとしては適切ではないでしょう。とはいえ、尊敬語の「ご乗車になれません」は、やや堅苦しいと感じる場合もあるかもしれません。
これにかわるほかの言い方として、まず、「乗車」を動詞ではなく名詞と捉え、助詞の「は」を加えて、「ご乗車はできません」とすれば問題ありません。また、場面によっては、相手の動作によって自分が恩恵を受けることを示す「いただく」の可能の形「いただける」を使って、「ご乗車いただけません」と言いかえることもできるでしょう。(滝島雅子)
[参考『敬語表現』蒲谷宏・川口義一・坂本惠(大修館書店)]