写真を見せると「この方で間違いありません」

このようにLiSSが携わる遭難捜索では、遭難者の計画を元にウェブ上で同じ日に同じルートを登った方を見つけ、話を聞くことがある。メッセージを受け取った側は急な連絡で驚くだろうし、見ず知らずの私からのコンタクトを怪しく思う可能性もある。そのため私は、最も読んでもらえる可能性が高いファーストコンタクトのメールに、遭難者の服装、遭難したであろう日付、何時に出発したか、山のどこであなたと接触した可能性が高いか、などを細かく記載する。

その上で「なにか情報をいただけたら、ありがたいです。『見かけていない、出会っていない』というものだとしても、私たちにとっては貴重な情報です。もし、情報提供いただけるようでしたら、管轄の警察署はこちらになるので、警察署でも、私たちにでも、どちらにでも構わないので、ご連絡いただければ幸いです」という風に書いて送る。

今回もありがたいことに返信をいただき、話をする機会をもらえた。ご夫婦で登山をしていたそうで揃って証言を得ることができた。おふたりはこの日、皇海山と隣接している鋸山にも登ったという。ルートは群馬県側の皇海山の登山口から地図でいえば皇海山と鋸山の中間あたりに出て、まず皇海山に登り、次に鋸山に登る。そして登山口に戻るというルートだった。

Wさんが予定していたルート図
地図=ジェイ・マップ

皇海山を登り終えて鋸山へ向かう途中と鋸山から下って登山口に戻る途中の2回、Wさんとすれ違い、会話をしたそうだ。Wさんはとても疲れた様子で、「またあの道を戻らないといけない」と話していたという。

念のためWさんの写真も確認してもらうと「この方で間違いありません」「自分たちが登山中に話した方があの後、遭難していたなんて」と震える声で話していた。おふたりの証言を元に考えると、Wさんは目的としていた皇海山に登頂した後、復路の鋸山か庚申山を進んでいる間に事故に遭ったことになる。

捜索中に突如鳴り響いた笛の音

「またあの道を戻らないといけない」

その言葉からどれだけ険しい道のりだったのかが想像できる。

鋸山は名前の通り鋸の歯のようにギザギザとした細かい尾根と谷が幾重にも続いている。見通しの利かないこの谷を、ひとつひとつ丁寧に捜索しなければならない。現場に入る捜索隊員は3人。50メートルのロープを3本使い、稜線から150メートル下まで降り、ロープにつながれたまま周囲を確認し、登って戻る。そして次の谷を降りて……を繰り返す捜索を計画した。

捜索隊が山中を進むと、どこからかピーッと笛の音が聞こえてきた。

Wさんか! 隊員たちの間に緊張が走った。