電波の受信に一区切りつけ、通常の捜索へ

この段階で、捜索プランは全て見直しだ。Wさんのご家族とココヘリ久我社長と相談し、今後は地上捜索を中心にすることになった。

ここまでの2日間は、とにかく「どうやってWさんの発信機の電波を受信するか」をファーストミッションに動いてきた。それが、ここからは通常の捜索になる。つまり、プロファイリングをし、Wさんのルートを再度検討し、捜索場所の優先順位をつけ、その現場に入るために必要な装備の準備を始めなければならない。

遭難してから日も浅く、Wさんの生存可能性はかなり高い。それなのに、一度この現場を離れなければならないということに、非常に申し訳なさを感じた。しかもWさんの行程は、繰り返しになるが、とても長いものだった。正直、「どこから、どう探すべきか……」と捜索計画に頭を悩ませていた。

Wさんは日頃「山で遭難してもココヘリに入っているから大丈夫」とご家族に話していたという。奥さんと娘さんは気丈に振る舞っていたが、Wさんが戻らない現実に直面し、混乱されている様子がうかがえた。

ココヘリは会員が遭難した場合、無料で3回までヘリで捜索を行ってくれる(2023年1月1日時点では、捜索費用補塡ほてん額以内で4回目以降もヘリ捜索が可能となっている)。この日は天気の合間をぬってココヘリのヘリコプターによる捜索を一度行った。久我社長の「ヘリは契約的にまだ飛ばすことができるから、『ここだ』という時には、ヘリ捜索も考慮してください」という言葉が救いだった。

SNSで行方不明者の目撃者を捜索

私は、プロファイリングのため、奥さんと娘さんにWさんについて話を聞いた。

性格は基本的には慎重だが、決断力があり、時折ダイナミックなところもあるそうだ。そうなると、登山の仕方も少し未知数なところがあるかな、と思ったが、頭脳明晰で理知的であり、元来の注意深い性格も考慮すれば、大きな道迷いをしてもそのまま先に進むことは考え難い。

それより、どこかで足を踏み外して滑落している可能性が高いのでは、と考えた。また、非常に社交的で人と話をすることも好きとのことだった。それならば、登山中もすれ違った人と会話をしているかもしれない。目撃情報を得られないだろうか。

遭難が発生した日に同じ山を登っていた登山者から話を聞くことができれば、当時の天候や登山道の状態、さらに言えば目撃情報を得られる可能性もある。そう考えて、SNSや登山サイトに投稿されている記録もチェックし、Wさんと山で遭遇している可能性がある登山者を探した。

日光側から庚申山、鋸山、皇海山と縦走するこのロングルートは、休日であっても決して多くの登山者がいるわけではない。しかも、Wさんが登山したのは平日だ。

しかし、LiSSの捜索隊が入山したルートで、群馬県側から皇海山だけを目指す登山者は多く、Wさんが登った日の登山記録が1件、登山サイトに投稿されていた。群馬県側から皇海山を目指した場合、登山口から皇海山山頂へ登り、登ってきた同じ道を下ることになる。途中で鋸山からの縦走ルートに合流するので、Wさんが皇海山までたどり着いていたなら、この登山記録を投稿した方とどこかですれ違っているかもしれない。

Wさんのご家族から遭難の概要について他者に情報開示する了承を得て、この登山記録を投稿した方へサイトからダイレクトメッセージを送り、コンタクトを取ることにした。