店舗スタッフの名誉を高めたい

もう一つ、僕らが目指しているのは、「店舗スタッフの富と名誉を高めること」だ。

賃金を上げ、店舗スタッフの地位向上を図ることで、多くの学生が憧れる存在、具体的には「なりたい職業ランキング」の上位に店舗スタッフを復活させたい。そのためには、まず賃上げを実現して、他の産業や職種に比べて魅力的な収入を得られるようにならないと、早晩見向きもされない仕事になってしまう。

幸い、評価のOMO(Online Merges with Offline:オンラインとオフラインの融合)の概念は多くの導入企業が支持してくれて、まだ完全ではないが、店舗スタッフへのインセンティブの還元は進みつつある。そうして富の部分で貢献できるようになったら、次は店舗スタッフの名誉を高めていく必要があると考えた。

それは、なぜか。このままではリアル店舗が死ぬからだ。店舗スタッフが雇えなくなったり、なり手がいなくなったりすると、代替技術としてロボットやAI(人工知能)の導入が進むだろう。しかし、「おもてなし」は店舗スタッフだからこそ実現できるものだ。

レジ業務や品出しがロボットに置き換わるのは歓迎するが、ロボットやAIにおもてなしができるようになるのは相当な時間がかかるだろうし、できたとしてもお客さまがぬくもりを感じるサービスになるかどうかは怪しいところだ。そんな将来も想像できる中で、現状の店舗スタッフは「誰でもなれる仕事だよね」などと、地位が低く見られているのが本当に残念だ。

オンライン接客コンテストを開催

リアルでもオンラインでも、お客さまと接する最重要なポジションであるはずなのに、現場の仕事が軽んじられている。

そう感じた僕らは、「店舗スタッフを極めた人はすごい」ということを世の中へ積極的に発信していくことにした。それが、21年から始めた令和のカリスマ店員を決めるオンライン接客コンテスト「スタッフ・オブ・ザ・イヤー」だ(23年は5月より一次審査を開始し、9月に最終審査を開催)。

21年に初開催した「スタッフ・オブ・ザ・イヤー」の一幕。写真はこの年のグランプリに輝いたバロックジャパンリミテッドの村岡美里さん
21年に初開催した「スタッフ・オブ・ザ・イヤー」の一幕。写真はこの年のグランプリに輝いたバロックジャパンリミテッドの村岡美里さん〔写真提供=小野里寧晃『リアル店舗を救うのは誰か』(日経BP)〕

この大会はほとんど僕の独断専行で決めたのだが、結果、とても良い効果を社内外にもたらしている。

22年に開催した2回目の大会には、所属する店舗やブランド、さらには全社を挙げて威信をかけて取り組んでくれる企業も確実に増えてきたし、参加する店舗スタッフの熱量もうなぎ登りに上がってきた。