ECサイトがあれば、リアル店舗は不要なのだろうか。オンライン接客アプリを展開するバニッシュ・スタンダードの小野里寧晃CEOは「リアル店舗で買い物する時のワクワク感や温度感は、売り上げを伸ばすうえで重要な要素になる。個性豊かな店舗スタッフをもっと活用したほうがいい」という――。

※本稿は、小野里寧晃『リアル店舗を救うのは誰か』(日経BP)の一部を再編集したものです。

洋服屋で店員と話をする女性
写真=iStock.com/tdub303
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店舗スタッフとECサイトの不幸な対立関係

店舗スタッフがECサイトでも接客できるアプリ「スタッフスタート」。

構想のきっかけは、アパレルの店舗スタッフだった友人の「お前たちがやっているECサイトなんて大っ嫌いだ」という一言だった。

僕は元ギャル男で、若い頃にアルバイトをしていた有名日焼けサロンには、渋谷109のカリスマ店員などたくさんの店舗スタッフが来てくれていて友人が多くいた。僕自身ファッションが好きだったし、彼女ら彼らの愚痴や悩みをたくさん聞く中で、友人たちを救いたいと思ってECサイトの制作や支援などを手掛けてきた。

でも、本来は企業や店舗スタッフの救世主になるはずのECが、逆に店舗スタッフを苦しめているという現実にショックを受けた。なぜそんな不幸なことが起こるのか。当事者たちへ徹底的に話を聞くと、店舗スタッフと企業の課題や、その対立構造が見えてきた。

【図表1】相対する店舗スタッフと企業の立場
図版=小野里寧晃『リアル店舗を救うのは誰か』(日経BP)より

店舗スタッフが抱えていた最大の問題は、「ECが原因で店舗にお客さまが来なくなった」と考えている人が多いことだった。

ECはお客さまにとっては便利なもので、企業やブランドとしては売り上げが伸ばせるし、うまくいけば収益性も高まる。しかし、店舗スタッフから見れば、「店舗の売り上げがECに奪われる」としか感じられないし、会社がECにリソースを振り向けることで「店舗の人員が削減される」と不安を抱いたり、実際にそれを目の当たりにしたりもしていた。当然、「給与も上がらない」という負の連鎖が起こっていた。

逆に当時、企業が直面していたのは、業績を上げるために、あるいは生き残るために「ECを強化せねばならない」という危機感だった。

ECを強化する一方で、「店舗の売り上げが下がっている(=店舗のリソースに余裕が出てきているはずだから、人を削減しよう)」「店舗の売り上げが下がっているから、給与は上げようがない」「採算性の低い店や将来性が見込めない店舗は閉鎖せざるを得ない」と、諦めを超えて開き直っているようにさえ感じた。

そんな、真逆の方向性を持っていた店舗スタッフと企業の課題を一気に解決し、双方の要望を満たすコンセプトを掲げたのが、スタッフスタートだった。