日本は円高が続いたから成長しなかった

マスコミは「32年ぶりの円安だ」と騒いだ。

たしかに、アベノミクスによって最後に少し円安になったが、この30年はおおむね円高だった。だからずっと日本は成長しなかった、それにより給料も伸びなかったのだ。

最近の日本の経済成長率は1.2%(2022年10~12月期(前期比)名目GDP)だが、これはほぼ現状の円安によるというのが、国際機関の予測である。それだけ円安の効果は大きい。

ところが、マスコミも財務省も、「円安は悪い」と言い続けている。正直言って理解不能だ。

円安を悪く言うのは日本だけ

自国通貨安、つまり円安を悪く言うのは、世界広しといえど日本くらいだ。

ほかのどんな国でも、自国通貨安は基本的に受け入れられる。「悪だ」と騒ぐ人はいない。

ただ、自国通貨安は近隣窮乏化につながる――つまり、周りの国のGDPを少し下げてしまうため、結果的に、自国ばかりが良い調子を保つことになり、近隣国から批判を受けることはある。「お前たちだけ得してずるいぞ!」というわけだ。

しかし、国内から、「歓迎すべき円安だ」「金融緩和を継続すべし」という声が上がってくることは、ほぼない。

それどころか、「円安を放置する政府は、けしからん」「金融緩和を続けているのは日本だけだ。早く引き締めを」の大合唱だ。これを売国奴と言わずして、何と呼べばいいのか、私は寡聞にして知らない。

円安になればGDPが増える。景気が良くなれば税収も増える。国にとっても良いことずくめだろう。それなのに、なぜか財務省も、金融庁も、日銀もそこに触れない。どの媒体を見ても、どこにも書かれていない。

彼らはなぜ、頑ななまでに「円安=悪」と言い続けるのだろう?

先ほど「後で説明する」と前振りしたが、ここでお話ししよう。

円が下がって、ドルが上がっていることを示す為替相場
写真=iStock.com/Motortion
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自然増収では手柄にならない財務省

なぜなのか。

それは、彼らが所属しているのが基本的に緊縮政策をとりたい人の集団だからだ。

緊縮政策が良いか悪いかという議論などいちいちせず、「緊縮政策こそ正しい」と何十年も、しかも何世代も前から心から信じている人たちの集団なのだ。緊縮政策以外に取るべき方法はないと刷り込まれているから、他の方法を検討しようとしない。

さらに、もし景気が良くなって自然に税収が増えたとしても、財務官僚にとってはあまり意味がない。自然増収は、まったく自分の手柄にならないからだ。

これがすべての根本である。

大事なことなので、もう一度言おう。

自然増収は手柄にならない。

だから企業収益が上がり法人税が増えても、手柄にはならない(企業収益を上げる意味では、円高よりも円安が望ましいのは前述の通りだ)。だから円安を続ける政策など打たない。

手柄になるのは何か。

税率を上げることだ。

「税率アップによる税収増」になって初めて、手柄と言える。これが彼らの行動原理だ。