中国周辺の国々は「毅然と対応」

一方、例によって中国政府の高圧的な応対が報じられているが、あちら側の一般国民は本当に“怒っている”のだろうか。

「18日現在、反日デモも“官製デモ”すら起きていない。日本製品のボイコット運動も皆無」――アジア各地でマーケティング戦略立案のコンサルティングを行うブランド・コアの福留憲治社長が言う。

「石原氏や野田首相の尖閣購入の意向は連日報じられ、広く知られてはいます。しかし、国民の大半は『どうでもいい』が正直なところ」(福留氏、以下同)

中国は今も南シナ海・スカボロー礁を巡りフィリピンとにらみ合うほか、ロシア、ベトナム、インドなど周辺諸国との領土に関わる揉めごとは日常茶飯事だ。

「7月、四川省徳陽市で数万人の民衆が蜂起した。民衆も政府も貧富の差が開きすぎたことへの不満のほうに関心がある。薄煕来事件のような汚職も、氷山の一角とは百も承知。不満は増幅されています」

ネットの急激な普及で、政府による情報の隠蔽や一般市民の誘導が難しくなっていることを、福留氏は各所で実感するという。その好例が、昨年7月に温州で起きた高速鉄道の衝突脱線事故だ。

「車両を埋めた行為が報道とネットで国内外に拡散し、怒った民衆によって炎上するサイトが続出、一部報道機関も公然と政府を批判しました。温家宝首相が現地を視察、珍しく記者会見まで行い、遺族には都市部市民の年収の20倍という50万元の賠償金で幕引きを図った」

事件を直轄した鉄道部は軍部の影響力が強く、かつてはこうした証拠隠蔽など当たり前だったとか。その鉄道部ですらこの状態。中国の国内は、日本人が想像する以上に急変しつつあるようだ。

福留氏は、尖閣問題が日本企業に与える影響は、現時点では小さいとしている。

「バブル崩壊や(戦争などの)地政学リスク以前に、労働争議や人件費高騰で日本企業が生産拠点を持つ理由がなくなっており、他のアジア諸国に移転中。なかには企業理念に従って現地生産を重視している企業もありますが、少数派です」

今、各社が力を入れているのは販売・マーケティングなど消費地に置く機能やサービス業の拠点。移転・撤退は簡単だ。

「腹が立つのは、一昨年の漁船衝突事件も含めて日本政府がまともな対応をしていないこと。国益を考え、毅然として対応すべきです。中国周辺の国々がほぼすべてやっていることですよ」

民主政権がどう人気取りに走ろうと、これまでの稚拙外交の埋め合わせは不可能。次の選挙では必ず反映されよう。

※すべて雑誌掲載当時

(PANA/代表撮影=写真)
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