5%実施から15年が過ぎた。国の借金はその間に620兆円以上も増えた。
財政は重症だが、国民の間ではいまも増税反対論が根強い。逆進性の強い消費税増税による低所得層の負担増、消費低迷と景気悪化の懸念、歳出などの無駄の削減が不徹底といった不満がある。
それ以上に政治は信用できるのかという疑念が消えない。増税分の使い道について、野田内閣の財務副大臣の五十嵐文彦は「社会保障の支給に充てるのを『原則として』から『完全に』に変更し、財務省の抵抗を排して会計も区分経理にした」と説明するが、巧みなやりくりで同額を別の予算に転用するやり方も可能では、という懸念が残る。
とはいえ、これだけの財政赤字は放置できない。増税は不可避の選択だろう。
だが、財政再建は消費税増税だけではできない。社会保障費も含めた歳出構造の大胆な改革、徹底した無駄の削減、経済活性化による税収拡大が不可欠だ。増税とどちらが先かが大きな対立点だが、同時並行が正しい答えである。
問題は増税に取り組む野田首相の姿勢とリーダーシップだ。大平以来、歴代の増税挑戦首相を目撃してきた野田毅が「歴史の教訓」を指南する。
「大平さんは前作業が不足した。中曽根さんはその反省があったが、失敗した。野田首相がこれをやるぞと腹を括り、満を持して持ち出したのであれば、もっと計画性があったはず。財務副大臣になったときに知恵をつけられてやっているというイメージで、底が浅い。野田首相は丁寧に説明するなど前作業が必要です。それと党内結束です。本気でやるのならまず小沢一郎さんとさしで話をしなければ。財務省の守備範囲の政策論だけでは終わらない。政策論で正しくても、政治論で理解されなければアウトです」
前作業が不足する野田首相は、冒頭で触れたように、谷垣総裁との秘密接触など、ここにきて局面打開に懸命だ。八方塞がりの状況だが、今後も直球一本で突き進むのか、それとも変化球も交えて「急がば回れ」の道も探るのか。
財務副大臣の五十嵐はこの先も「直球型の野田」に期待を寄せる。
「反対派には絶対反対と条件付き反対があるが、本質的な部分に触れる妥協を重ねていったのでは、元も子もなくなる。何が何でも嫌だという人は出ていってもらって結構。引き留めていない。野田首相は腹を括っているのではないか。これができなければ、政権の命脈を長らえても意味はない。場合によっては野党も含めて政界再編が起こることもある。解散を覚悟してでもやるべきことはやる、というところまできていると思う」