健康のためにはどんな食生活を心がければいいのか。東京大学大学院の佐藤隆一郎特任教授は「カロリー量よりも脂肪分の摂取量に気をつけたほうがいい。1970年ごろの沖縄は長寿県といわれてきたが、脂肪を多く摂取する食文化に変化した結果、糖尿病による死亡率は男女ともに全国最悪となった」という――。(第1回)

※本稿は、佐藤隆一郎『健康寿命をのばす食べ物の科学』(ちくま新書)の一部を再編集したものです。

日本人の摂取カロリー量は戦後すぐよりも少ない

本稿には、東京大学駒場キャンパスで私が行っている「食の科学」の講義内容の一部が含まれています。読者にもぜひ、私が駒場生に毎年出題するクイズにチャレンジしていただきたいと思います(図表1)。

そのクイズとは、次のようなものです。「第二次世界大戦後、食の欧米化と飽食ほうしょくが進み、さらには慢性的な運動不足が生活習慣病急増の原因ともされています。さて、それでは現在の日本人の一日の平均エネルギー摂取量は、戦後間もない1950年と比べてどのくらい変化したでしょうか。①減少、②1.4倍、③1.78倍、④2倍以上」。

一般の方々に向けた講演会でも同じクイズに挑戦してもらうことがありますが、多くの人が選ぶのは④で、最も少ないのは①です。選択肢をよく見ると③だけが小数点二桁まで表示してあるため、目ざとい駒場の学生の多くはこれを選びますが、実はこれは私が仕掛けたトラップです。

戦後間もない時期に比べて現在は飽食が進み、高カロリーの欧米食を口にする機会が増え、生活習慣病の患者が増加したというのは誰もが想像することで、④を選択するのは当然ともいえますが、このクイズの正解は①の「減少」です。

統計によれば、1950年当時の日本人は食事から2098キロカロリーのエネルギーを摂取していましたが、2000年代に入ってからは、特に女性のダイエット指向の高まりとともに食事由来摂取カロリー値は低迷しており、2000キロカロリーを切るのが現状です(2018年の男女平均値は1900カロリー)。

つまり、摂取カロリーが増加したことが生活習慣病患者の増加の直接の原因ではないということです。