魚油には脳機能を支えるDHAが含まれている

畜肉に含まれる脂質は飽和脂肪酸に富んだトリグリセリドで、これはグリセリンに飽和脂肪酸が複数個結合した分子です。飽和脂肪酸に富んだ食事を摂り続けると肥満になりやすく、さらには動脈硬化などを発症する原因となります。

一方、植物性脂質や魚油には不飽和脂肪酸が豊富に含まれています。不飽和脂肪酸は室温では液状となります。たとえば植物性油脂でつくられたマーガリンは室温ですぐに溶けますし、食用油も液状です。一方、飽和脂肪酸、つまり畜肉の白色の脂身は室温でも溶けることはなく、固形のままです。たとえば乳脂肪分でできているバターは冷蔵庫から出してしばらく置かないと柔らかくなりません。このような物性の違いが脂肪酸にはあります。

さらに魚油にはω-3(n-3とも呼ばれる)脂肪酸と呼ばれる不飽和脂肪酸が含まれており、代表的な多価不飽和脂肪酸がEPA(エイコサペンタエン酸)、DHA(ドコサヘキサエン酸)です。不飽和脂肪酸は炭素原子のつながりが二重結合(不飽和結合とも呼びます)となっており、この結合を二つ以上持つ脂肪酸を多価不飽和脂肪酸と呼びます。DHAは脳に多く含まれ、脳機能を支えています。

欧米と比べると魚の消費量が多い日本人女性の母乳にはDHAが含まれています。牛はDHAを摂取せず、牛乳にはDHAがほとんど含まれていないため、日本の育児用調製粉乳(牛乳を原料に調製される)には、乳児の健全な脳の発育に必須な成分であるという考えのもとにDHAが添加されています。

食文化の変化で健康状況が悪化した沖縄県

魚摂取の有効性は多くの論文で明らかにされていますが、大規模研究を複数合わせた36万人以上を統合した解析によれば、魚摂取が週に1~2回の人に比べ、ほとんど食べない人は大動脈疾患死亡が約2倍に上昇するとされています。

成人においてω-3脂肪酸を食事もしくはサプリメントなどで積極的に摂ることは脂肪燃焼(脂肪酸酸化)を促進するなど、健康維持にとって有効であることは多くの研究成果で示されています。

戦後70年の間に日本人の食生活は欧米化しましたが、これと生活習慣病患者数の増加との因果関係を実証することは大変難しいというのが現状です。これについては、沖縄県の平均寿命の経年変化から多くのことを学ぶことができます。

沖縄県は最近まで長らく、長寿県とされてきました。厚生労働省は5年ごとに都道府県別平均寿命を公表しており、沖縄県は日本復帰後の1975年の調査結果から女性の平均寿命で1位をキープし続けていました。2010年に初めて3位となり、2015年は7位、2020年には16位になりました。男性も全国の10位以内に入っていましたが2010年に全国30位となり、2020年にはついに43位まで後退しています。

食物繊維が豊富で低カロリー・低脂肪な健康食を摂っていた頃の沖縄県民は長寿でしたが、アメリカによる占領とそれに起因する食文化の劇的な変化が大きな影響を及ぼしました。1970年代、沖縄県では糖尿病による死亡率は全国ランキングで男女ともに47位でしたが、21世紀に入ると男女揃って1位となりました(図表3)。