チャーチル首相がうつを「黒い犬」と呼んだ理由

人生は、いろいろな試練の繰り返しです。うつっぽくなったときでも、浮いたり沈んだりという経験を繰り返して、少しずつ対処が上手になる人もいます。

例えば英国首相だったウィンストン・チャーチルは、精力的に任務を遂行しつつ、繰り返しやってくるうつ症状に苦しみ、うつのことを「黒い犬」と呼んでいたそうです。

おそらくチャーチルは、自分の状況を俯瞰ふかんし、「黒い犬がやってきても、それはやがて去って行く」ととらえることができていたのでしょう。

うつ状態になることを「黒い犬」と名づけることで、自分の波をことさらおおごとにとらえないという対処法を身につけていたわけです。

気持ちが落ちてしまう自分のことをダメだと思わず、「ああ、またあの黒い犬が来た」と思えば、「仕方ないな、あいつがいるうちは自分は暗いんだ」とあきらめもつき、自分のことを責めないで済むところが賢い、と私は思うのです。

「過去は振り返らない」なんて人は要注意

一方で、何度繰り返しても対処が上手にならない人もいます。毎回波に飲まれては、ダメージを受けてしまうのです。この波乗りが上手になる人とならない人との違いは、疲労から回復し、第1段階のレベルに戻ったときに、きちんと振り返っているかどうかだと思います。

波をなんとかやり過ごして元気になったときに、「気持ちが落ちて溺れていた自分」を振り返って観察してみると、わかることがあります。

人にはストレスをためるコップがあって、それがいっぱいになるとあふれ、気持ちが落ち込みます。ストレスが勢いよくコップに流れ込んできてあふれたときは、とてもわかりやすいでしょう。しかし、ほんの少しストレスが追加されただけなのにコップからあふれてしまった場合は、「ああ、気づかないうちに、すでにコップの中にはストレスがかなりたまっていたんだな」と気づくべきなのです。

こうしたことは、スケジュール帳を見ながら落ち着いて振り返らないとなかなか気づきません。「俺は過去は振り返らない、常に前を向く」なんて言っている人は、毎回気持ちの落ち込みにやられてしまいます。

迷彩服を着た自衛隊の足元
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