中国当局の意向に抵抗できない中国企業

要するに、TikTokユーザーの情報が、意図的に中国当局に収集される危険性があるのだ。TikTokやその親会社であるバイトダンスにそのような悪意がなければ、安全だろうと思う読者の方もいるだろう。しかし、中国には、善意の企業さえ政府の意図には抵抗できない法的根拠がある。

北京の人民大会堂
写真=iStock.com/Mirko Kuzmanovic
※写真はイメージです

中国の国家情報法は、同国の企業や民間人に対し、安全保障や治安維持のために中国政府の情報収集活動に協力することを義務付けている。中国政府は企業などが持つデータをいつでも要求でき、日本をはじめ外国の企業も当然対象となる。西側諸国を驚かせ、アメリカを本気にさせてしまった法律である。

要は、中国の当局が情報を出せと言えば、バイトダンスはそれに従わざるを得ないのだ。

米記者の情報を抜いていた「前科」も

また、これらはあくまでバイトダンスがTikTokを“善意”で運営していることが前提の話であり、同社がそもそも中国政府の指示の下にTikTokを世界で流行させ、アプリにバックドアを仕込み、日常的に情報を収集することを意図していた可能性も否定できない。

実際、TikTokには疑わしい「前科」がある。2022年12月に米『フォーブス』誌等が報じた内容によれば、米TikTokおよびバイトダンスの数人の従業員が2人のジャーナリストを含むアメリカ市民のユーザーデータに不正にアクセスし、その事実をTikTok側も認めている(”EXCLUSIVE: TikTok Spied On Forbes Journalists” Forbes, Dec 22, 2022)。

ちなみに、このTikTok、利用者は世界で10億人を超え、日本でも約1500万人が使用していると推計される。

TikTokから中国当局に情報が流出した場合のリスクとは何だろうか。

TikTokの主な機能は、短時間の動画の投稿とメッセージのやり取りだが、アプリのインストール時には連絡先や位置情報、写真や動画へのアクセス権限を許可することを求められる。さらに、IPアドレスや端末のID、インストールしている他のアプリら各種ファイルの名称と種類などといった、細かな技術的情報も収集する。