東部ドンパスでは村が丸ごと焦土と化していた
今回、私が訪れた東部ドンバス地方のロシア軍に支配された街や村は、どこもそれはひどいものだった。そう、本当に「ひどいもの」としか表現しようがない。何しろ1つの村が文字通り「全滅」しているのだ。村には高いビルが少なく戸建てが多いのだが、人が住めるような家が見渡す限り1軒もない。
それは、東京大空襲や原爆投下後の広島のモノクロ写真を想起させた。これまで40年以上にわたってさまざまな戦場を見てきたが、今回ほど激しく、広範囲におよぶ破壊は見たことがない。これらの地域が整備されて人が戻り、復興するまでにどのくらいの時間がかかるのか。
またロシア兵は軍紀を守らないし、破壊した住宅からは金目のものはすべて持ち去っていく。もっともこれは旧ソ連軍時代からの伝統であり、動員された兵士の多くは辺境の貧しい地域から徴用され、略奪は大目に見られる傾向がある。「衛星放送の受信アンテナを持っていかれたが、チューナーは置いてあった」という冗談のような話も聞いた。そういう機器を見たことがないのだろう。
破壊と略奪の限りを尽くすロシアだが、冷蔵庫やテレビなどの家電を大量に持ち去るのは、製品が目的ではなく、なかの電子部品を武器の修理に使うためだと聞いた。奪った家電を集積所に持っていくと、専門家が武器に転用できる部品を集めているらしい。侵攻当初には聞かなかった話であり、よほどロシア国内の軍需産業が逼迫しているのだろう。
ロシア軍は民間人の住居や学校をわざと破壊している
東部ハルキウ州の要衝イジュームは、昨年9月11日にロシア軍が“事実上撤退”を表明した激戦地である。人口5万ほどのこの小都市で、横に長い大きな集合住宅の真ん中が吹き飛ばされ、2棟になっているのを見た。ミサイル攻撃を受けたのだろう、まるでケーキを切ったように、きれいに2つに分かれている。
ど真ん中ということは、明らかにロシア軍は誘導弾の照準を合わせ、狙って民間人の住居を攻撃しているのである。その他、100年以上歴史のある小学校が、めちゃくちゃに破壊されている現場も見た。病院なども4分の1ほどが吹き飛び、使い物にならない。
まさに「焦土と化す」という言葉が当てはまる、その地域のすべてを根絶やしにし、二度と住めなくしようとしているとしか思えない。
イジュームはロシア軍の侵攻以降しばらく、ウクライナ軍がとどまって抵抗を続けた激戦地だったが、それにしても破壊のされ方がひどすぎる。チェチェン紛争でも都市で激しい市街戦が展開されたものの、ここまでの惨状ではなかった。