取得したくない男性社員が3割近くいる
「育休よりも仕事」重視の考え方の経営者が多ければ、取得したいと思っても申請を出す社員は少なくなるだろう。もちろん今の仕事が一区切りついたり、休んでいる間に代わりに担当してくれる人がいれば取得できるかもしれない。しかし、中小企業にはそんな余裕はないようだ。
前出の日本商工会議所の調査では男性育休取得促進の課題についても聞いている。最も多かったのは「専門業務や属人的な業務を担う社員の育休時に対応できる代替要員が社内にいない」(52.4%)だった。次いで「採用難や資金難で育休時の代替要員を外部から確保できない」が35.7%と多かった。
代替要員がいないのに「育休を取得します」と言えば、「何だ、お前は。仕事を放り出して」と言われかねないだろう。育休を切り出す前に取得を諦める社員も多いかもしれない。
実は3番目に多かったのが「男性社員自身が育児休業の取得を望まない」(28.8%)だった。望まない理由として「収入が減る」ことが挙げられるが、それだけでもないだろう。
俺を裏切るのか!
前出の髙橋氏は「社員の側は収入減につながることに加えて、キャリアの不安もある。つまり育休を取ったら、その後の自分のキャリアに影響するのではないかという不安も根強くあり、長期の休みを取ることに対する怖さも感じている」と語る。
その上で今後の中小企業の育休取得について「定型業務など比較的重要度の低い仕事に従事している社員は一定程度取得が進むかもしれないが、管理職など要職に就いている社員は依然として取得がなかなかできない状況が続くと思う」と語る。
実は「男性社員自身が育児休業の取得を望まない」背景には、育休を取得したら重要な仕事から外される、あるいは昇進の道を閉ざされるという不安も大きいのではないか。実際に中堅小売業の人事担当者はあるケースについて語ってくれた。
「信頼していた男性の部下が上司に育休を申請したところ、『今、昇格がかかった大事な仕事を任せている。終わるまで待て』と説得したらしい。それでも取りますと言って人事部に申請を出しに行こうとしたところ、上司が廊下まで追いかけてきて『お前にはこれまで期待していたんだ、俺を裏切るのか』と言ってかなりもめたらしい。人事部が育休申請を受理して育休に入ったが、復帰後も、しこりが残っているのか、上司がプロジェクトから外すなど嫌がらせを受けていた」
最終的に、上司は人事部からパワハラ行為として厳重注意処分を受け、部下は他部署に異動したという。