江戸城の100万個超の部材を細部まで精緻にVR化
トッパンVRのさらなる魅力は、江戸城天守や安土城天主、平城京といった現存しない建造物までも、当時の設計図などをもとにVRで復元していることだ。
江戸城は15世紀に太田道灌が築城し、徳川三代将軍家光の代に莫大な費用をかけた、五重の天守が完成した。だが、1657(明暦3)年に発生した明暦の大火によって、天守をはじめ多くの建造物を焼失。天守はその後再建されなかった。江戸城は大正時代の関東大震災、先の大戦における空襲でも大きな被害を受けていた。
その江戸城が仮に現在まで約360年間建ち続けていたなら、どんな姿なのだろう。トッパンVRでは経年劣化も含めて再現した。葵紋の金具に刻まれた葉脈や、鯱の鱗を留めるための鋲など、100万個を超える部材を細部にいたるまで精緻にVR化した。
歴史を振り返れば、わが国は災害大国だ。火災や地震などで消滅した文化財は少なくない。文化財を高精細のデジタルデータで保存しておけば、「万が一」の時には再生・再建に役立てられるかもしれない。それを実体験したのが、2016(平成28)年の熊本地震であった。
「実は熊本地震で大きなダメージを負った熊本城とその石垣は、震災5年前にVR作品にしていました。特に震災後の石垣の組み直しは途方もない作業になりますが、当社のVR制作時に取得した櫓や石垣など4万点の画像が残っていたことで、復旧作業の効率化に貢献しているようです」(前同)
そういう意味では2019(令和元)年10月に火災で正殿などが全焼した首里城を、VR保存できていなかったことが悔やまれる。
自然災害だけではない。人口減少が進むなかで、特に地方寺院の無住化が深刻だ。現在7万7000の寺院が存在するが、無住寺院は1万7000カ寺ほどあると考えられている。2040年にはさらに1万カ寺ほどの寺が「消滅」するとも指摘されている。
貴重な建築物や仏像などの日本の宝が、いま存続の危機に直面している。
高度なデジタルアーカイブ技術は、仏教界が独自にできるものではない。このVRの制作が、消滅危機にある名もない地方寺院にまで広がりをみせることは仏教界の悲願ともいえる。それも、さほど遠くない未来には期待ができそうだ。
たとえば、寺の住職がスマートフォンで撮影した仏像などの画像をもとにしてVRがつくれる「簡易VR」の技術である。すでに一部の企業では、その技術も確立しつつある。この簡易VRが普及すれば、全国の寺院に存在する数百万体ともいわれる仏像や、宝物の調査・管理・公開が一気に広がりをみせることになる。
VRの保存・公開は、宗教界や国、行政、大学、そして民間企業が一体となって取り組むべき、急務だと感じた。