入場するごとに3000円の赤字

サンリオはこの32年間、2つのテーマパークを合わせて、延べ約4000万人の来場者を迎えてきた。

初期建設費770億円(SPL:700億円、HL:140億円の51%負担分)に加え、32年間で積みあがった累積営業赤字は550億円。

つまりサンリオは本業で稼いだ利益を費やして、単純計算で1320億円(※資金調達手段の違いや利子率、償却費は計測できないので含めず)もの赤字をかけて、この2つのテーマパークを守り続けてきた。

ハーモニーランド
ハーモニーランド(写真=nyquist/Panoramio/CC-BY-SA-3.0/Wikimedia Commons

これは単純に計算すれば、ファン1人あたり平均2000円の入場券とグッズや飲食費3000円で合計5000円を使っているが、実際そのサービスには8000円のコストがかかっている、ということになる。

このファン1人ずつに「サンリオが支払っている余分な3000円」は未来への投資である。

SPLが赤字で運営されていようと、その場に足を運んだ数千万人はよりサンリオを好きになり、サンリオのグッズを将来買ってくれるに違いない。そういった期待もあって、テーマパーク事業自体の赤字は受容されてきた。

特に初期の1992~94年あたりは売上80億円前後に対して毎年営業利益が50億円~60億円もマイナス、撤退という判断があってもおかしくはなかった数字だろう。

実はこれはサンリオに限った話ではない。

この時代、長崎オランダ村(1983年設立、2001年閉鎖)、スペースワールド(1990年設立、2017年閉鎖)、ナムコ・ワンダーエッグ(1992年設立、2000年閉鎖)、東京セサミプレイス(1990年設立、2006年閉鎖)、松竹の鎌倉シネマワールド(1995年設立、1998年閉鎖)、ウルトラマンランド(1996年設立、2013年閉鎖)と、多くのパークが初期の大型投資と、その後の周辺人口の来客数・顧客単価が合わず、最初の3~5年で大赤字、10年後には再建・撤退検討となっている事例が珍しくなかった。

それでもサンリオが継続できたのは、テーマパークが専業ではなく、あくまで本業を支援する事業としての位置づけがあったからだろう。

なぜ世界中で店舗を運営したのか

サンリオは「空間演出」に重きを置いてきた企業だ。単にモノを置いて売る場所ではなく、ユーザーが心の充足感を味わえる空間を演出するため「ギフトゲート」(1971年~)、顧客層をより大人に向けた「vivitix」(1996年~)という直営店舗そのものにもコンセプト別に店舗にブランドをもたせた展開をしてきた。

提携店舗であっても同様で、伊勢丹の「ギフトイン」や高島屋「いちごプラザ」など、百貨店ごとにすらブランドを付け替え、20世紀にいち早く“身近なテーマパーク的空間”を先駆けてきた企業でもあった。

これはディズニー社が初めて直販事業を手掛けた「ディズニーストア」(1987年~)の10年以上前から手掛けてきた話だ。

2003年には国内で直営でも160店舗、百貨店・量販店・専門店も合わせると1470店舗(現在のゲオやTSUTAYAと同じくらいの国内店舗規模)。

北米を中心に海外にすら直営21店舗含む400店舗、取扱店にいたっては2万店舗という広大な流通・小売のネットワークを敷いていたことは20年経つ現在でも信じられない数字だ。

自社だけで1万2000種類の商品群に、毎月600種類ずつの新商品が出され、ライセンスでも2万1000種類の商品が展開された。果たして日本のキャラクターでこのレベルにまで海外の隅々に商品を届けられた事例は過去歴史上あったのだろうか。

1990年代のサンリオ破竹の勢いをみると、逆に前述のSPL・HLを赤字でも維持できた「王者の余裕」も垣間見える。