たった4年で黒字になったワケ
SPLのV字回復の立役者は小巻亜矢氏、1983年にサンリオに入社し、結婚退職した後50歳を過ぎてから東大教育学の修士に入り卒業。2014年に子会社の顧問に就任し、2016年SPL館長となった。
2014年赴任時に役員会で出た次のセリフに衝撃を受ける。「この会社は黒字にならない。無理、無理」。そして冒頭で述べたように、黒字化はその後の2017年度に実現することになる。
小巻氏の施策は、コミュニケーション&モチベーション(朝礼でのナレッジ共有、女性トイレの整備、スタッフ感謝デー導入)とターゲット拡大(大人も楽しめるイケメン俳優2.5次元ミュージカル導入、松竹と歌舞伎ショーを共同開発、シナモン男祭りなどの男性限定イベント)の2つの面が功を奏し、2010年代のテーマパーク市場全体の好景気の波に乗ることに成功する。
黒字になると自然と施策の打ち手にも幅が広がり、イベントを増やしたり、新規でキャラクターフードを開発したり、イルミネーションショーを導入したり、コロナ前の2017~19年、SPLやHLはどんどん活気づいていた。
投資の真価が問われるのはこれから
コロナ禍での2020年は当然テーマパーク事業も赤字転落、そしてサンリオ本体も含めて1994年以来の26年ぶりの赤字に陥る。
「底」を見た後、創業者・辻信太郎氏の孫である辻朋邦氏の社長就任に伴い、直営店の整理や商品数の削減など過去手が付けられなかった案件にもさまざまな構造改革の成果が見え、テーマパーク事業も再度黒字化のめどが立ちつつある。
今年でサンリオは創業63年、キティが誕生49年、もはや「ショップ体験によるサンリオ商品コレクション」が中心のビジネスモデルではなくなっているが、「体験」をユーザーに訴求する“原点”としているところは今後も変わることはないだろう。
その意味ではショップやテーマパークのもつ可能性は、いまだ大きいといえる。東京都心30分という地理のアドバンテージをまだ生かし切れているとはいえない。
果たしてこの1000億円以上をかけ続けた壮大な事業の「真の成果」がどう表れてくるか。2023年以降の動きに注目したい。