サビルの死後にメディアが悪事を報じ始めた

BBCの独立調査委員会によると、サビルの被害者は少なくとも72人。最年少は8歳で、強姦被害者が8人いた。正式な苦情は8件も提出されており、BBC内の若手職員や中間管理職の中にはサビルの性的虐待を知っていた者もいた。これとは別に10歳の少女を含む女性21人に暴行を加えていたBBCアナウンサーもいた。

「J-POPの捕食者」のリポーター、アザール氏は「サビルはしばしば国家的な存在、国宝級の人物とみなされていた。サビルとバッキンガム宮殿、BBCは邪悪な三角関係にあった。バッキンガム宮殿がサビルと良好な関係を持っているなら問題ないとサッチャー首相の時代には彼を社会のロールモデルとして首相官邸に招待までしていた」と振り返る。

サビルの死後1年近くがたった12年10月、「ニュースナイト」の調査報道に携わった刑事出身の記者によるドキュメンタリーが民放ITVで放送されたのをきっかけに警察への被害届が相次いだ。その記者が討論会で「サビルが生きている時は名誉毀損で訴えられるのが怖くて手が出せなかった」と苦渋に満ちた表情で打ち明けるのを筆者は聞いたことがある。

たくさん並ぶ白い人型の中に一つある青い人型
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日本メディアは家父長制とムラ社会に汚されている

英国では故人が誹謗ひぼう中傷を受けても訴える権利を遺族に認めていない。人格権は個人の死亡とともに消滅すると考えられているからだ。ロンドン警視庁の捜査では性的虐待の被害者は450人とみられる。サビルはBBCの企画や公共医療サービス(NHS)での慈善活動を通じて性的虐待を繰り返していた。警察も何度か端緒をつかんだが、生前に怪物を追い詰めることはできなかった。

サビルの死後も性的虐待をもみ消そうとしたBBCは批判の洪水にさらされた。労働市場の流動性が日本に比べて高い英国では、BBCの取材班にいた記者が他メディアに移り、サビル事件を告発できた。日本では性犯罪を公に訴えることがタブー視され、同性愛への偏見も根強い。英国より死者の名誉が保護されていることも告発をためらわせているのかもしれない。

しかし一番の問題は日本にこびりつく家父長制とムラ社会にある。家父長には逆らえない。逆らえば村八分にされる。そんな恐怖心に覆われながら日本人は暮らしている。マスメディアもそのシステムにしっかり組み込まれていることを改めてジャニー喜多川の児童性的虐待は浮き彫りにしているに過ぎないのだ。