『週刊文春』だけが気を吐いた

ジャニーズ事務所の所属タレント抜きでは番組を制作できないNHKや民放だけでなく、大半の新聞や雑誌が「見ざる聞かざる言わざる」の“三猿”を続けてきた。『週刊文春』だけが1999年10月から14週にわたり所属タレントに対する喜多川の児童性的虐待を追及した。翌11月、喜多川と事務所は名誉毀損きそんで文藝春秋を提訴し、文春サイドは1審、2審も敗訴した。

東京地裁は喜多川の児童性的虐待の真実性・相当性を否定し、喜多川と事務所へ各440万円の支払いを文藝春秋に命じた。03年7月の東京高裁判決は性的虐待の真実性を認めたが、所属タレントの日常的飲酒・喫煙、冷遇、事務所とTV局による万引事件の隠蔽いんぺいについては真実性・相当性を認めず、喜多川と事務所へ各60万円の支払いを命じた。

当時、『週刊文春』は「肛門性交そのものも苦痛でしたが、それを誰にも話すことができないという“秘密”を胸に持ったことが本当に苦しかった」というサバイバーの苦痛に満ちた証言を報じている。中には12歳の少年もいた。喜多川と事務所は高裁判決を不服として上告したが、最高裁はこれを棄却し、04年2月、東京高裁判決が確定した。

「逆らえば番組に出てもらえなくなる」という忖度体質

みどり共同法律事務所(東京)の穂積剛弁護士は東京高裁判決を受けたコラムの中で「最大の争点は喜多川が未成年者の少年らに対して『淫行』を実際に行ったのか、その行為を拒否するとデビューさせてもらえなかったり、ステージの立ち位置が悪くなったりするため少年たちが抵抗できないという事情があったのかという点であった」と指摘している。

高裁判決は「喜多川のセクハラ行為の態様及びその時の状況に関する少年らの供述内容はおおむね一致するものであり、かつ具体的である」「週刊文春の取材班は少年12人に取材し、そのうち10人以上がホモセクシュアルの被害を訴えたこと、取材班は少年らに対し大事な点については角度を変えて何度か繰り返し質問し、矛盾がないか確認したこと」を認めた。

喜多川は法廷で「少年たちは自分で集めた子です。みんながファミリーだと言いながら、血のつながりのないというほどわびしいものはないという意味で、寂しかったからというのは逆に僕自身だったかも分かりません」「彼たちを全然恨んでもいません。彼たちはうその証言をしたということを僕は明確には言い難いです」と少年たちの証言を受け入れた。

法廷
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穂積弁護士は「巨大な力を持つ大手芸能プロダクションに対し、TV局をはじめとするマスメディアが忖度そんたくして報道を控えてきた。逆らえば自社の番組に人気タレントを出演させてもらえなくなる。そうした忖度体質のために、喜多川のような非道な犯罪行為を続けていた人物の反社会的行為が隠蔽され、存続してきた」とマスメディアの沈黙を批判している。