デブは太る努力のたまもの

岡田氏に言わせれば、現代人というのは、毎日毎日しゃにむに太る努力をしているようなものだという。自分の過去を岡田氏は総括する。彼は大いに太っていたが、「痩せられないダメなデブ」ではなかった。むしろ「太る努力を惜しまない、根気も実行力もあるデブ」だったのである。「日々の太る努力をやめれば、自然と痩せる」というのが彼の戦略のコンセプトであり、このコンセプトに忠実にストーリーが組み立てられている。

レコーディング・ダイエット決定版[著]岡田斗司夫(文藝春秋)

レコーディング・ダイエットは、どの側面をみても必ずこのコンセプトとつながっている。だからストーリーとしての一貫性が高くなる。たとえば「食べたものを記録する」というレコーディング・ダイエットの中核となる行為。これにしても、最大の目的は自分が行っている太る努力を見つけることで、摂取カロリーの抑制ではない。食べ過ぎを反省するためのものでもない。あくまでも、大して好きでもないのに食べているという「太る努力」を自覚させ、それをやめるための手段なのである。

このコンセプトは人間の本性を的確にとらえているという意味でも秀逸である。だから戦略の実行に向けて人々の気持ちに火をつける力がある。ダイエットを「やせる努力をする」ことだと考えると、体重が減らないと自分を責めてしまう。しかし、太っているのは「努力の結果」と再定義すれば、無理な努力をやめればいいのだから、やたらとポジティブな話になる。

理想に走り、無理難題を掲げ、「頑張ろう!」というようなコンセプトでは人々は動かない。「太る努力をやめる」は、どこにも威勢のいい言葉が入っていないあっさりとしたコンセプトに聞こえるが、岡田氏の経験や試行錯誤に裏打ちされた、実に奥深い思想の凝縮である。このコンセプトがなければ、レコーディング・ダイエットは存在し得なかった。逆にいえば、この秀逸なコンセプトをものにした時点で、戦略ストーリーの半分はできたも同然だっただろう。