法の踏み越えがむしろ「道徳的義務」に?

さて、「市民的不服従」として許される「法の踏み越え」の範囲は、「窮迫性」の度合いに比例する(少なくともJSOやLGのメンバーの一部はそう考えている)。気候変動をめぐる危機的状況が『旧約聖書』「創世記」の「大洪水」にも相当するものだとすれば、法の踏み越えは、むしろ道徳的義務ないし神学的義務となる。

破壊された街に降る雨
写真=iStock.com/Divaneth-Dias
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JSOやLGを批判的に見る人(そこには私も含まれる)は、彼らを「おかしな人」たちと考える。しかし気候変動を並々ならぬ「窮迫性」で捉えるJSOやLGのメンバーからすれば、環境的カタストロフィを前にして自分たちと同じような行動をとらぬ人たち(社会の多数派としての「われわれ」)こそが「おかしな人」である。彼らの目には「われわれ」は、「箱舟」を作るノアを「わらう」人々、つまりノアの周りに存在していたであろう人々――最終的に大洪水にのみ込まれた人々――のように映るのである。

運動のキーパーソンの人物像

ロジャー・ハラムについて考えることは、環境的黙示録が市民的不服従をいかに「汚染」しているのかを見極めるための好例になるだろう。彼はXRの実質的創設メンバーの一人であると同時に、JSOの主要メンバーの一人である(彼はTwitterで1万3000人ほどのフォロワーを持ち、YouTubeに自分のチャンネルも開設している)。

1966年生まれのハラムは、もともと小規模な農業経営者だったが、彼の言うところによれば、気候変動により家業は破綻し、その後、環境・平和活動家として運動に関わりつつ、キングス・カレッジ・ロンドンで市民的不服従を研究をしたという。

2019年、彼はヒースロー空港拡張反対運動の一環として、ドローンを空港上空に飛ばそうと計画し、逮捕された。その獄中で書いたのが『若者たちへのアドバイス、君たちは全滅に直面している(Advice to Young People, as you Face Annihilation)』というパンフレットである。

このパンフレットでハラムは市民的不服従やキング牧師などに言及しつつ、自身の来歴についても語るのだが、気候変動とその帰結を語る段になると、記述はまさに環境的黙示録というべきもの、しかもそのもっとも極端なバージョンに変化する。気候変動の破滅的帰結、海面上昇による世界の沿岸部の破綻、食料危機といったかたちで、世界の終わりが窮迫性とともに描かれる。

さらに彼は、政府や企業、中産階級はもちろん、「グリーンピース」やリベラル左派、さらには急進的左派も総否定する。とにかくハラムの考えるかたちでの直接行動以外はすべて滅びの道、全滅の道なのである。