彼は驚き、彼女はジッと聴く

そこで男性は思い切って、上司の上司である役員に給料を上げてほしいと直訴にいきました。男性はまだ、その会社で実績らしい実績は残しておらず、しかも女性であるその役員とはそれまで交流はなく、彼女も彼のことはほとんど知らない状態にもかかわらずです。

しかし彼女は、その男性が事情を説明すると、「もっと話してください」と言い、彼は驚きながらも、家庭の状況や会社のためにやってきたことを詳しく述べました。その間、彼女はじっと聴いていました。すると、今度はこの会社、顧客、製品についてどう思うかと彼に質問しました。男性としては、給料のことを話し合うはずだったのに、彼女が聞いたのは彼がやっていること、彼の考え、入社してから数カ月で学んだことなど、彼に関する話ばかりでした。

そして彼女は、彼も対応したことのある顧客のことを質問しました。その顧客については彼にも考えがあったので、取引を増やすためのいくつかの意見を語りました。

数日後、彼女から呼ばれて部屋に入ると、すでに3~4人集まっていました。例の顧客に関する彼の考えがホワイトボードに書いてあり、彼らは活発にディスカッションしました。ディスカッションは何時間も続き、彼の気持ちはとても高揚していました。結局、その顧客との取引が増え、彼が担当することになりました。そしてこの顧客への新たな大きな仕事によって、彼の給料も増えたのです。

闘うか要求を呑むか、ではない解決

このときのディスカッションが、その会社での彼の目覚ましい出世の始まりでした。彼はついに、この会社の共同経営者になったのです。

この役員の女性こそ「シナジスト」にふさわしい人物です。彼女は、「第3の案」を探す考え方ができる人物でした。その男性と闘うか、あるいは彼の要求を呑むかのどちらかだったら、ずいぶん簡単だったはずです。しかしそうはせず、劇的なWin-Winの可能性を感じ取ったのです。男性のニーズとエネルギーを顧客のニーズに結びつければ、全員が勝つことができるのではないかと考えたのです。その結果、まったく新しい仕事が生まれ、その男性はパートナーとなり、会社に対する貢献を年々増やしていったのです。

もし、あなたが上司の立場で、周りの人たちにこの「第3の案」の思考プロセスを実践しているところを見せれば、周りはあなたに自然に影響されるでしょう。

(翻訳=猪口 真 編集協力=ブレック・イングランド 撮影=若杉憲司)
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