生活者の「情報武装」は、企業の想定スピードを凌駕

今生活者に起きている変化はすさまじい。我々のようなデジタルなマーケティングを長年提案してきたものからしても、ここ数年で起きている現象には目を見張る。この現象はもはや「情報武装」と呼ぶのがふさわしい。

その理由としてまずはなんと言ってもスマートフォンの「爆速」な普及である。日本のケータイであるガラケーも非常に高機能で様々なことが実現可能であった。しかし、スマホは進化したケータイではなく、やはりインターネットに繋がったパソコンが手のひらに来たというほうが正しいだろう。いまや売り場ではガラケーを探すほうが大変という状況の中、いまや普及率は30%を越え、日々この生活者個人の史上最強デジタルコミュニケーションデバイスの普及が進んでいる。

そして次にソーシャルメディアという巨大なコミュニケーションプラットフォームの登場である。自社で個人情報を気にしながら電子メールアドレスを集めることなく、大量の人とリアルタイムなコミュニケーションがいつでもどこでも可能になり、コミュニケーションのためのコストは劇的に低下した。とはいえユーザー数が1000万に届く浸透を見せる中でも、FacebookやTwitterの広がりは限定的なものではないかという懐疑的な見方があった。しかし、そのような言説もLINEのようなサービスの登場が一気に壊しつつある。

こうした生活者のまわりに提供されるデジタル環境はある部分では企業のIT投資の時間軸を超え始めているといえるだろう。生活者ニーズを収集するのに紙のアンケートがインターネットアンケートになったぐらいの気分でいたマーケッターからすれば、購買データ、ソーシャルメディアでのつぶやき、コンテンツへのアクセスデータなど、顧客ニーズはデジタルデータの大洪水としてリアルタイムにあふれ出している状況だろう。しかしここをつなぐ覚悟をしなければマーケティングデータの流れもつながらない。

これまでは顧客のデータは調査データ、販売データの形で部分的に蓄積され、活用されてきた。一部の通販、EC企業などPCやコールセンターで生活者とつながるようなダイレクトマーケティング企業では、顧客ニーズがリアルタイムで処理されはじめていたが、一気通貫のコミュニケーションがようやく顧客、店舗、オウンドメディア、本部という普通の小売りなどでも可能になりつつある。

実際ローソンは情報武装が進んだコンビニであるから、LINEというプラットフォームをスマホで利用している生活者が、店内のLoppiという端末の前まで来てくれれば、あとはPOSレジによりデータを収集分析することが容易にできる。つまりいつ発行したクーポンがどの店舗で何時にどのくらいの人に利用され、同時に何を購入されたのかのデータはすべてリアルタイムで取得可能である。このデータを蓄積していけば、どんな顧客候補にどんな商品のどんな値引率のクーポンを届ければどのくらいの人を店舗に誘導でき、どのくらいの売上になるかのシミュレーションも可能になる。

マクドナルドはすでに配信するクーポンは顧客の購買動向に応じて中身を変えているが、顧客別に最適な誘導施策を行う手段を手に入れたということは「顧客別に価格を変え、目標利益率を設定できる」ということでもあり、クーポン以外にも様々応用この強力な武器は多くの小売り業をプロダクトベースから顧客ベースへのマーケティング移行を進めることになるだろう。