「無投票どころか、定員割れもあり得る」

2023年は市町村や都道府県などで首長や議会の選挙が行われる「統一地方選挙」の年である。選挙と言えば、首長や議員になりたい多くの候補者から議員定数の人数だけを選ぶために行うのだが、このところ全国各地で異変が起きている。候補者が定員を超えずに「無投票」で当選者が決まるケースが相次いでいるのだ。

発言前に書類の確認をしている男性の手元
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大分県南東部にある津久見市。江戸時代から続く石灰石鉱山の町も、そんな自治体のひとつだ。ご多分に漏れず人口減少が続き、今や1万5896人となった。

「今回も無投票になるのだろうか」。市民は顔を合わせると、そう小声で話す。4月23日に予定される市議会議員選挙に立候補者が集まるのかが懸念されているのだ。

というのも前々回の2015年と前回の2019年は定員14に対して立候補者14人と、2回連続で無投票になった。今回は、その定員を12に減らしたのだが、それでも懸念は消えない。「無投票どころか、定員割れもあり得ます。市議会議員のなり手がいないのです」と地元の有力者はつぶやく。

「おいしいポスト」の時代は終わった

2022年以降だけでも、奥州市宇城市常陸大宮市、知立市、美濃加茂市瑞浪市などの市議会議員選挙が無投票となった。町村の議会になるとさらに多い。

かつては、「無投票」と言えば、事前の候補者調整や、特定の有力者しか立候補できない暗黙の了解があるケースがほとんどだった。時には立候補調整に金銭授受が発覚、事件化することすらあった。議員は地域の名士たちが代々就く「家業」で、世間相場からすれば高い議員報酬のほか、公共事業に関する利権もある「おいしいポスト」だったのだ。

ところが、昨今の「無投票」の多くはまったく事情が違う。報酬は下がり、公共事業も激減して利権も消える中で、「うまみのないポスト」になったこともあるが、報酬の割には苦労の絶えない仕事になったという面も大きい。

というのも、自治体は今、山積する問題に直面している。少子化による人口減少で税収が減少、財政が悪化して老朽化した公共設備の更新もままならない。一方で高齢化に伴って福祉関連の予算は増える一方だ。かつてのように、議会が増える予算を分配すれば良い時代は議員も気楽だったが、足らない予算を分配しなければならない時代になって議員も苦しい立場に立たされるようになった。特に規模の小さい市町村の場合、議員はまったく魅力のない職業になりつつある。