「両親のベトナム料理店を助けてください」と題する7秒の動画には、客の姿がまったくない店内が映し出されている。続いてカメラが店のカウンターに寄ると、険しくも哀愁漂う表情を浮かべた父親のリーさんが、今ではめっきり開くことのなくなったドアをじっと見つめている。
ジェニファーさんは来る日も売上になやむ両親の姿に耐えきれなくなり、この動画を投稿したという。
動画中に添えたテキストのなかで彼女は、「自分たちのベトナム料理店にお客さんが入ってきて料理を食べてくれないか……と、ひたすらに待っている両親を見ていると、本当に胸が痛い」と家族の窮状を綴った。
コロナ禍の今だからこそ、TikTokは一段と効果を発揮している
もの悲しい動画のメッセージは人々の心に突き刺さり、動画は現在まで140万回以上再生された。そして、1カ月と経たないうちに、すべてが変わった。
米CNNは、「この動画には相当な反応があった。3週間後、店は満席となったのだ」と報じている。いまでは父親のリーさんは、できたてのヌードルを客席に運び、テイクアウト待ちの行列にも慌ただしく対応している。
リーさんはCNNの取材に対し、「地元から大勢の人たちが、支援に駆けつけてくれました。本当に感謝しています」と述べ、満面の笑みを見せる。3週間前、店のカウンターで浮かべていたあの険しい表情は、今はもう昔の話だ。
ジェニファーさんのTikTokを通じた情報発信は、かなり的を射た戦略だったようだ。デジタル・マーケティングの専門家はCNNに対し、コロナ禍で多くの店が閉店し、ウェブページに書かれている営業日や営業時間はもはや当てにならなくなったと指摘している。
そうしたなか、数多くのユーザーがリアルタイムに近い情報を発信しているTikTokは情報の鮮度が高く、人々はエンタメ動画のプラットフォームを超え、情報収集ツールとしてTikTokを活用しているのだという。
米『フォーチュン』誌もこの一件を取り上げ、「TikTokはエンタメのプラットフォームを超えた存在だ。父親が経営するベトナム料理店を、誰の手も借りずに繁盛店に変えた、21歳のジェニファー・リーが証明したように」と述べている。