相続税調査…自宅訪問してからの“段取り”
午前中は相続人の方から聞きとり調査をして、お昼の休憩を挟んで、午後からは「現物確認」をするのが基本的な流れです。
現物確認というのは、相続税申告に関する資料などを確認する作業のことです。具体的には、預金通帳や土地の権利書などに目を通して、申告内容に漏れがないかをチェックします。そして、最後にあらためて質問をするなどして、その日の調査は終了します。
私は上司から指導されて、「現物確認のときは資料をもってきてもらうのではなく、資料の置き場所に案内してもらう」ということを徹底していました。
というのも、資料をもってきてもらうと、資料の一部を隠されるおそれがあるからです。そのため、あえて資料の置き場所まで案内してもらいつつ、部屋のなかに怪しいものがないかどうかもつぶさにチェックするのです。さらには、その部屋に案内されている途中、ほかの部屋もさりげなく見て、骨董品や金庫などの財産がないか、目を光らせます。
このような経験を通じて感じたのが、富裕層の家には、あまりモノがなく整然としているということでした。
広い家が多いものの、高級家具や骨董品がたくさん並んでいるわけではありません。普通の家よりも、むしろスッキリした印象なのです。
富裕層に対する質素な印象は、その後、何度となく相続税調査をしてからも、大きく変わることはありませんでした。
結局、東京国税局の職員を退職するまでの13年の間に、何台もの高級車やプール、プライベートジェットといった、いわゆる“お金持ちアイテム”を目にすることは一度もありませんでした。
国税職員が調査相手の暮らしぶりに目を向けるのは、遺産の金額を推測するヒントになるからです。
たとえば「被相続人が死亡する3年前に、不動産を売って1億円を手にした」という情報を得ていたとしましょう。すると、国税職員はその1億円が死亡日にどれくらい残ったかを推測するために、生活費などをヒントにします。
だからといって、いきなり「毎月の生活費の支出を教えてください」といっても警戒されますから、亡くなった被相続人の通帳を見せてもらったり、趣味を聞いたりしながら、生前のお金の使い方を推し量ろうとするのです。
話を聞いて豪華な生活をしていることがわかれば、「生前に財産を使い切ったのだな」「これ以上調べても相続税の申告漏れ財産はなさそうだ」と納得するのですが、そのようなケースは稀です。
むしろ、年金や不動産賃貸などによる収入以内に生活費を抑えて、亡くなる直前まで資産を増やし続けていたケースが少なくありませんでした。
「お金を稼ぐ」ことが富裕層の条件と思われがちですが、「お金を守る」ということにも力を入れなければ、富裕層として生涯を終えることは不可能です。電話代のような細かい費用であっても、徹底して支出を避ける意識こそが、富裕層の第一条件なのかもしれません。