※本稿は、小林義崇『元国税専門官がこっそり教える あなたの隣の億万長者』(ダイヤモンド社)の一部を再編集したものです。
富裕層が税務署員に必ず「折り返しの電話を」と言うワケ
「電話を折り返してください」
都内の税務署に若手職員として勤務していた私は、相続税について相談したいという女性から、たびたび電話を受けていました。その女性は、いつも名前と電話番号を私に告げるや否や折り返しを求めて電話を切るのです。
最初に相談を受けて話を聞いたとき、ざっと計算しただけで、その女性は数億円単位の財産を相続しており、確実に相続税の申告が必要であることがわかりました。
そのことを説明してから、たびたび電話で疑問点を尋ねてくるようになったのですが、そのたびに折り返しの電話を求めてきたわけです。
ある日、その女性との長電話を終えた私は、近くの席にいた50代のベテランの先輩に、「億単位の財産を相続しても、電話代が惜しいんですかね」と、ついこぼしてしまいました。
するとその先輩は、「コバちゃん、わかってないね。そういう奥さんがいたから、億単位の財産が貯まったんだよ」と笑い飛ばしたのです。まだ新人だった私にはピンときませんでしたが、数十年にわたって相続税調査を経験した先輩にとって、お金持ちの人が折り返し電話を求めることは、けっして不思議なことではなかったのです。
相続税調査をはじめて経験したときも、富裕層の質素な生活ぶりにたびたび驚かされました。当時の私にとって、富裕層の生活など“未知の世界”です。私が育ったのは福岡県北九州市の市営団地が建ち並ぶエリアで、周囲にお金持ちはいませんでした。
私にとってお金持ちのイメージといえば、漫画やアニメで見た『おぼっちゃまくん』の世界観です。
家には執事やお手伝いさんがいて、欲しいものはなんでも買ってもらえる。そんな自分とは別世界の人々だとしか想像できなかったのです。
はじめての相続税調査で富裕層の自宅を訪問するまでは、「億万長者だから、きっと派手な生活をしているだろう」と、不謹慎ながら豪勢な生活ぶりに触れることにワクワクしていたのですが、実際に調査に入ると、その期待はあっさりと裏切られました。
拍子抜けするほど、普通の暮らしぶりだったのです。相続税調査は、基本的に公務員の勤務時間内の朝10時頃から夕方の4時頃まで行われます。訪問先からは迷惑がられることが多いのですが、仕事なので仕方ありません。