低反発のマットレスよりは硬いが、よく眠れる
こうして入手した布団セットだが、その寝心地は予想を超えたものだったという。
彼女は語る。「布団の表面は柔らかくて心地よく、詰め物とその下の固い床が、完璧な強さで(身体を)サポートしてくれました」「背中が心地良いんです。おそらく、布団にはクッション性と硬さの両方が備わっているためでしょう」
シュリーさんはアメリカの読者向けに、日本の一般的な布団には十分なクッション性があり、かつ低反発のマットレスよりは硬さのある寝具だと紹介している。
布団は日本を含むアジアでよく使われている寝具だが、欧米の人々のなかには硬すぎるとの先入観があるのか、実際に寝てもよく眠れなかったという声も聞こえる。
しかしシュリーさんの場合、硬軟が組み合わさった適度な素材感がいたく気に入り、どのベッドでよりも熟睡できる結果になったようだ。
いまはアメリカに戻り、寝具担当の編集者として活躍する彼女だが、ニトリの布団を本国へ持ち帰れなかったことが心残りのようだ。仕事でさまざまなマットレスを試しているが、「けれど本当に正直なところ、日本の布団が心の底から恋しいんです」とこぼす。
西洋式のマットレスにはもう戻れない…
日本式の布団に心酔するのは、シュリーさんだけではない。
アメリカのジャーナリストであるヒラリー・ルボウさんは2021年、米CNETの親会社による大手健康情報サイト「ヘルスライン」に、「ベッドを捨てた:今は人生最高の睡眠を手に入れた」との記事を寄稿している。
きっかけは率直に言って、予算の問題だったという。ルームシェアを解消して初めての一人暮らしに挑んだ彼女だが、家賃の高騰するカリフォルニアで、広い贅沢な部屋は望めない。
「切手サイズよりもちょっとだけ大きな部屋」とルボウさんが苦笑するマンションは、正直なところかなり手狭だった。机も置きたいし、ヨガのスペースも確保したいという彼女の願望は、どうやら叶えられそうにない。しかし、突然のひらめきが訪れた。「待って、ベッドは必要?」
ルボウさんは、「それまでは必需品だと思っていたベッドが、急に無駄なスペースに感じ始めたのです」と振り返る。生まれてこのかた、ベッドで睡眠を取ってきた彼女にとっては、目からうろこのアイデアだったことだろう。
実際に布団での生活を始めてみると、沈みすぎない適度な硬さなどが幸いし、初日からぐっすり眠ることができたという。「敷布団で過ごした最初の夜、私は人生で最も深い眠りに誘われました」とルボウさんは語る。
「わたしは2年以上もこうして寝ていますし、もしかすると西洋式のマットレスにはもう戻らないかもしれません。夢中になってしまいました」