不眠症の外国人記者も布団でぐっすり
布団はまた、日本を代表する旅館文化の象徴的存在でもある。自宅で試したとまでは行かずとも、日本滞在中に旅館で布団に寝泊まりし、その魅力を実感したという声は多く聞かれる。
旅行ジャーナリストのローナ・ソーンバーさんは、ニュージーランドの大手ニュースメディアである「スタッフ」に寄稿し、京都府南丹市は美山を訪れた際の体験談を綴っている。
山里にひっそりと佇む、かやぶき屋根の一棟貸し宿に宿泊したという彼女は、地元の人々と一緒に作る料理体験や温泉などのアクティビティをひととおり満喫したあと、床に布団を敷いて眠った。
ソーンバーさんは「私は慢性的な不眠症なのですが」と打ち明けつつも、「その夜は重ねた布団のうえで、人生最高のひとつに数えられるほどの睡眠をとり、窓の半透明の障子越しにかすかに差し込む朝日で目を覚ましました」と振り返る。
欧米から旅行に訪れる多くの人々にとって、床や畳にほぼじかに眠る敷布団のスタイルは馴染みの薄いものだ。半ば尻込みしつつも、同時に興味の対象にもなっている。旅行情報サイトの「トラベル」は、「ホテルよりも伝統的な日本旅館を予約する10の理由」のひとつとして、布団で眠る体験ができることを挙げる。
同サイトは、布団の感触が「最初はちょっと不思議な感じがするかもしれません」と前置きしつつも、「多くの人々が、布団は驚くほど柔らかく、(身体をしっかりと)支えてくれることに気づきます。間違いなく忘れられない一夜の眠りとなることでしょう」と述べ、布団での一夜を試してみるよう勧めている。
布団だから感じられる日本のおもてなし精神
ほか、旅館での布団体験は、さまざまな訪日客を魅了している。言わずと知れた旅行ガイド誌の『ロンリープラネット』は海外旅行者向けに、「日本の神髄を一度に味わいたいなら、旅館に泊まるのに勝ることはありません。そこでは日本の究極のおもてなしを体験することができるのです」と説く。
お茶や懐石料理とならび、食事に出ているあいだに布団が部屋に用意されている手際の良さが海外の関心を惹いているようだ。同紙に寄稿した豪旅行ライターのジェシカ・コートマンさんは、「ディナーに出ているあいだに、布団が魔法のように敷かれている」と舌を巻く。
ニュージーランド・ヘラルド紙も同様に、旅館の障子や畳などが醸し出す風情に加え、「ふかふかの布団が毎晩敷かれること」を旅先の優雅な体験のひとつに挙げている。
昼夜で異なる部屋の使い方に合わせ、タイミングよく上げ下げされる布団は、旅館のきめ細かな気配りを肌で感じるきっかけになっているのだろう。