算数だけで4人の家庭教師

オーロラさん夫妻は高収入カップルで、お金のある人のすることは、どこの国でも極端――ということだろうか。私はその後、このように毎日来る家庭教師を雇っている話を聞いたことがあるかと聞いて回ったが、同じ人物に全科目の家庭教師と母親的な役割までをも外注するケースはこれまで見つかっていない。

しかし、オーロラさんと同等の金額をかけている人は、そこまで珍しくはないことも分かった。しかも、必ずしも超高収入カップルに限らない。

インド系シンガポール人のサラさん(仮名)も、一人娘の小学6年生の1年間は、1日に2科目の家庭教師が入れ替わり来るなどして、中国語、英語、理科……と全8人の家庭教師(算数だけで4人)を雇っていた。それぞれの科目は週1~2回あり、すべての金額を合わせると6000~7000ドルになったという。彼女の世帯月収の申告は、夫婦合わせて8000ドル弱。「その1年だけと思って」、可処分所得のほぼすべてか、上回るほどの金額を家庭教師に投資していたことになる。

高学歴家政婦が人気 

なお、シンガポールの家計調査(HES:Household Expenditure Survey)によれば、シンガポールではこの10年、塾の利用金額が激増している。家庭教師の利用金額はほとんど変わらないが、こちらも根強い人気を保っているようだ。その理由について「家庭教師は自分の子の学びに合わせてカスタマイズしてくれるから」と語る親は多い。

そして共働きにとっては、オーロラさんの例のように、もう1人の母のようにふるまってくれる、つまり家庭におけるケア役割も代替してくれるという理由がある場合もある。

あるとき、シンガポール国籍を取得済みの中国出身の友人が、中国語のニュース記事を私に送ってくれた。Google翻訳と彼女の説明をもとに要約すると、中国の都市の一部で、「高学歴家政婦」を雇うのが流行っているというのだ。

家政婦を雇ううえで、子どもの教育も見てくれる高学歴の女性が人気だという。新卒で就職活動に苦労する若い女性たちにとっても、家庭教師先の富裕層と人脈を築くことのできる仕事は悪くないと、その記事では分析されていた。

勉強を教えてくれて、子どもの状況に合わせたケアもしてくれる。親にしか果たせないと思われてきた家庭内での「教育役割」を、外注できる選択肢が出てきているといえるだろうか?

ハイエンド家庭/パワーカップルで、こうした母業も含めたフルタイム家庭教師を雇うという非常に個人化されたオプションは、今後一般的になり、女性の就労と男女平等化につながり得るだろうか?

しかし、ここで、教育役割を外注できるような家庭教師をつけるために必要なのは、お金だけではないことも分かってきた。