「こんなものが分析と言えるのか!」

「イギリス流ロジックの権化のような男だった。水も漏らさぬロジックで証拠を固めて結論を出していく」(撮影=編集部)

イギリス人といっても国籍はイギリスではない。カニングハムは親の仕事の関係でインドに生まれた。名門パブリックスクールのイートン校からオックスフォード大学という典型的な英国エリート。イギリス国籍がなかなか取れないのでカナダ国籍を取り、マッキンゼーのトロント事務所に所属していた。

彼が日本で仕事をすることになった詳しい経緯はわからないが、あまり頭が鋭すぎて周囲と軋轢を起こすということでトロントでは問題児扱いされていたらしい。

実際、世にも稀なる理屈っぽい人間で、イギリス流ロジックの権化のような男だった。水も漏らさぬロジックで証拠を固めて結論を出していく。論理的思考が必須のイギリス教育の賜物なのだろうが、あれだけタイトに論理を煮詰めていく人間も珍しい。

首尾一貫そういう性向だから、他者に対する許容度が狭くて、上司や顧客に対しても当たりがキツイ。いわゆるIQ抜群、EQゼロというタイプである。さすがのマッキンゼーも持て余して、後に彼を追い出すことになってしまう。

しかし私とはウマがあった。理詰めの分析はエンジニアの仕事と共通している。工学的アプローチだから違和感がない。

カニングハムは何かにつけて議論を吹っかけてきた。何かの分析を持ってきて「こういうことになっているようだ」と説明すると、「こんなものが分析と言えるのか!」「こんな分析で結論が出せると思うのか!」と噛みついてくる。白い紙に数式や図式を書き込みながら、分析の欠点やロジックの甘さを厳しく指摘してきた。

「AとBを足したらこうなる。それでCというためにはこれを証明しなければいけない」

「分母はこの数値を取らなきゃダメだ」

「こういうグラフを書いてみればハッキリわかるじゃないか。もっと広範な母数を取ってやり直すべきだ」

一切容赦なし。曖昧な表現を使うことは絶対に許さないという雰囲気で、いちいちイチャモンを付けて、これでもかと論理を畳み込んでくる。

カニングハムは英語しか話せないし、多少英語が話せる社員がいてもカニングハムの理屈っぽい英語にはとても歯が立たない。

彼は自分が抱えている日本人のチームメンバーと意思疎通ができないから、そのストレスを全部私にぶつけてきた。私の担当外の問題まで、「議論のための議論をさせてもらいたい」などと持ち掛けてくるのだ。

議論は嫌いではないものの、さすがに痺れた。しかし、どこにも逃げ場はない。独身寮に住む2人は絶海の孤島に取り残されたようなものである。

おかげでイギリス流の論理思考にどっぷり浸かって、「隙のない分析力」というものを集中的に学ぶことができた。

次回は「日本で最初の大きな仕事(後篇)」。7月23日更新予定です。
 

(小川 剛=インタビュー・構成)