貯蓄だけで安心できないのは、年収が激減し、毎年の「決算」が赤字になっているからだ。部長昇格後、石山氏の年収は会社の業績と大きく連動するようになった。業績悪化が直撃した昨年は、3年前のピーク時に比べて400万円減った。毎月の手取り45万円から、教育費のほか住宅ローン、食費、光熱費、家族5人の携帯電話代などを差し引くと、貯蓄まで手が回らないという。しかし1000万円超の年収でも足りないものなのか。詳しく話を聞くと、2つの出費が黒字化を妨げていることがわかった。
ひとつは、年2回の家族旅行だ。家事に追われる妻のために、「これだけは行こう」と約束している。国内が中心とはいえ、5人分の出費は痛手だ。去年の沖縄旅行でも80万円が消えた。
「でも、旅行は行くべきだと思うんです。普段は会話する時間もないし、家族が結束する意味でも続けたいですね」
もうひとつは交際費だ。異業種の人脈を広げることを目的に、週3回のペースで飲み会に参加する。さらに親しい仲間と月2回はゴルフに出かける。費用は毎月8万円程度。現在の収入に不満を持つ石山氏は、10年ほど前から転職の機会をうかがっている。社外の人脈拡大に熱心なのは、転職の際にそれが有利に働くと考えているからだ。しかし、皮肉にもこの費用が赤字拡大の一因になっている。
貯蓄残高は昨年の2100万円がピークで、この1年で100万円が目減りした。「最終防衛ライン」は1500万円という。不安はないのかと尋ねると、「悲壮感を漂わせるのは精神衛生上よくないですからね」と、ほほえんだ。