20代の頃から50代の既婚男性とばかり恋愛
結婚の予定もなかった。父を憎んでいるからか、男性に父の面影を求めてしまうのか、30歳以上離れた男性でないと恋愛感情が持てなかった。それゆえに、20代の頃から50代の既婚男性とばかり恋愛をしていたという。
「会社に入ってからもそうでした。同じ年の人には、全く興味が持てない。でも大人の男性は、みんな結婚している。だからどうしても不倫になっちゃうんです」
家族が欲しいのに、好きになる人には家族がいる。恋人は平日の夜、自宅にやってくる。人目があるから、外でのデートはできず、家で性交するのみ。終われば恋人は家庭に帰るために、終電時間を気にしながら、美代さんの家を出る。
20代半ばになると、周りの友達は結婚、出産を経験していく。たまに会うと、話題は離乳食、抱っこ紐、バギーの使い勝手から、英会話の早期教育、小学校受験、中学校受験と目まぐるしく変わっていった。
「天涯孤独で、孤立無援。結婚を急かしてくれる人もいないし、本当に誰もいないんです。仕事はしており、悪くない程度の給料をもらっていますが、出世の道が開けているわけでもないし、仕事が増えるから管理職には絶対になりたくないですし」
河川敷に倒れていた猫
そんなある日、孤独に耐えかねて、幼い頃に生活していた埼玉県と東京都の県境にある埼玉県側の街に引っ越した。自分が生まれ育った家のような小さな中古住宅を購入したのだ。それが40歳のことだった。
「両親と祖母の遺産がちょっとあったんです」
あるとき散歩中に、血まみれになっている猫を見つけました。あのときの衝撃はすごかったです。死んだ父が蹴り飛ばした猫が生き返ったのかと思いました。
幼い頃に父の乱暴を見ていたので、ドラマや映画でも暴力シーンは苦手です。血が流れると目をつぶってやり過ごしているのに、猫を見たときに体が反射的に動きました。
その猫はケガをしているのに抱こうとすると暴れた。そのとき、美代さんはショールを巻いていた。それは4万円もするものだったが、ためらいなく猫をくるみ、近くの動物病院に連れていった。獣医の診断では、人間に虐待された跡があるという。
その獣医は、「動物は法律上はモノなので、いたぶって楽しむ人は意外と多い」と語っていた。
「すぐにスマホで検索すると、いろんなかわいそうな猫が出てきました。個別の虐待もひどいけれど、それよりも恐ろしいのは多頭崩壊。猫は繁殖力が高く、1回の妊娠で3~7匹産んでしまう。
例えば、ある人が猫を拾い、その猫が妊娠していたとします。それを放置すると、1年も経たないうちに、20匹くらいになってしまう。世話をしきれず、強烈な悪臭に包まれて、排せつ物にまみれて猫が餓死していく。そんな事例を知り、怒りと悲しみでいっぱいになりました」
拾った猫は回復したら美代さんが飼おうと思った。しかし、内臓の損傷が激しく、その日のうちに死んでしまった。