中国はフェンタニル問題を外交カードにしている

政治的なリスクや機会を分析する専門誌『ジャーナル・オブ・ポリティカル・リスク』の発行人で、米中の外交問題に詳しいアンダース・コアー氏は、「中国はフェンタニル問題の交渉を、台湾問題のような全く異なる問題と結びつけています。そのため、ペロシ氏が台湾を訪問した時、中国が米国に報復した方法の1つは、フェンタニルに関する交渉を中止することでした」と述べている(エポック・タイムズ、2023年1月7日)。

つまり、2022年8月にナンシー・ペロシ下院議長(当時)が台湾を訪問したことに対する報復措置として、中国はフェンタニル問題に関する米国との交渉を中止したというのである。中国がこの問題を外交カードとして利用し始めたことで、根本的な問題解決はますます難しくなってきた。

銃による死亡を抜いて若者の死因1位に

冒頭でも述べたように、米国では毎日薬物の過剰摂取で300人近く(年間10万人以上)が亡くなり、そのうち約3分の2はフェンタニルによるものだという。薬物全体の死者数はこの10年で2倍以上に増えたが、その増加分のほとんどをフェンタニルが占めている。

10年前には誰も予想できなかったような重大な危機を招いてしまったわけだが、その要因は先に述べたように政府の対策の失敗もあるが、それよりも大きな問題は米国人の麻薬に対する飽くなき欲求(強欲さ)ではないかと思われる。

米国では現在、17歳未満の男女と18歳~45歳の男性の間で、フェンタニルの過剰摂取による死亡が交通事故や銃による死亡を抜いてトップになっている。特に若年層の死者が急増しているが、致死性の高いフェンタニルはたった一度の判断ミスで命を落とす可能性がある。

それにもかかわらず、闇市場の売人からフェンタニルを買い求める人が後を絶たない。言い換えれば、彼らの強欲さが違法薬物の需要を拡大し、それを満たすためにメキシコの麻薬カルテルなどが密輸していると言うこともできる。