航空業界向けにコンサルタント・サービスを提供するIBA社のピーター・ウォルター氏は昨年3月、ロイターに対し、「パーツが限られていることから、ほかの機体が飛べるようにするため、ロシアに留め置かれている航空機が強奪の対象となることが予想されます」との見解を明かしている。

プーチンの戦争はもう限界を迎えている

プーチン氏が始めたウクライナ侵攻は、ウクライナ国民の命を奪っただけではなかったようだ。ロシア国内の機体のメンテナンスが滞り、次第にロシアの乗客たちの安全を脅かす事態に発展している。

ウクライナ侵攻に投入された戦闘機が消耗するのはある程度織り込み済みだった可能性があるが、民間の旅客機や戦線に加わっていない軍用機でも墜落などの重大インシデントが相次ぐ事態は明らかに異常だ。

苦肉の策の「共食い」により、本来ならばまだ飛べるはずだった航空機が解体されその寿命を終えている。こうして急場しのぎの代替パーツで保守を受けた機も、新品の部品を用いたあるべきメンテナンスの形と比較すれば、最適な措置を受けたとは言い難い。

現在では前述のように、ロシアを飛び交う旅客機のうち3機に2機を占めるエアバスやボーイング製の機体が、満足に整備されないまま飛び交っているおそれがある。乗客や乗員はもとより、万一の墜落の危険を考えれば、路線付近の住民も命の危険にさらされている状態だ。

軍用機でも整備不良は問題となっており、質の低い代替パーツを緊急的にイランなどから調達しているとの報道もある。この影響と完全に断定されたわけではないが、ウクライナ戦線と関係のないところで軍用機が墜落した一件は、少なくともロシアのマンションに平穏に暮らしていた13人の命を奪った。

プーチン氏の描いた侵略計画は、当初の展望からすっかり様変わりした。いまでは国民、軍人、航空業界関係者たちの命を「ロシアン・ルーレット」のように奪う恐ろしい装置へと変貌している。

ウクライナの市民が直接的に受けている恐怖とは比べるまでもないにせよ、それでもなお侵攻は、ロシア国民にとってさえ確実に生活の質をむしばむ病巣となっているようだ。

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