今までみたいに仲良くとダダをこねているのは、父のほう
ではもうお一人、「思春期の娘をもつ父親」としての先輩でもある、明橋大二先生にお話を聞いてみよう。明橋先生は、現役の心療内科医でスクールカウンセラーだ。ベストセラーの子育て本の著者でもあるし、お嬢さんは21歳と19歳で、思春期を終えている。子育て全般のプロの生の体験談ほど役に立つものはない。
しかし、開口一番、「今回この取材を受けるにあたって、あらためて娘に聞いてみたんですよ。あの頃、どんなふうに感じてた?って。そうしたら、『そんなことを聞かないとわからないこと自体、お父さんはなんにもわかってなかったっていう証拠よね』と言われてしまいました」と先生は苦笑いして言った。
ということは、明橋先生も?
「そう。娘が思春期の頃にはほとんど話なんかしてもらえませんでしたね。こんな仕事をしているから、うちは大丈夫だろうと高をくくっていたのですが、やっぱりほとんど会話がなくなりました。でも、あとから考えてみれば当然なんです。思春期というのはそういう年代なんですからね。娘さんが話をしてくれなくなったからといって、必ずしもお父さんが悪いわけじゃないんです」
そ、そうですよね。やっぱり経験者はわかってくれるんだ。思春期の娘に冷たくあしらわれるのは、古来、娘をもった父親に共通の悩みだったんですね!
「いえ、そういうことではありません」
え? 違うんですか?
「今でこそ男性が育児にかかわることは珍しくなくなりましたが、昔は子育ては奥さんに任せっきりで、父親が子供と接すること自体がそれほど多くなかった。思春期だろうとそうでなかろうと、父親と娘の会話なんてそもそも少なかったんです」
そういわれてみれば、子育てはカミさん任せと思っている私でも、自分の父親に比べれば、かなり多く子供と接している気がする。
「人々の意識の変化や核家族化などが理由だと思いますが、いずれにしても『思春期の娘に冷たくされた』というのは、最近の父親こその悩みなんです。逆に言うと、最近の父親は子離れが遅れているということかもしれません。娘さんがそろそろ精神的な自立を始める時期なのに、お父さんのほうが『今までみたいに仲良くしよう』と、ダダをこねている。父親が子育てに参加するのはすばらしいことだと思いますが、それによって『父の子(娘)離れ』という新しい問題が生じているわけです」