安倍政権下で保育は「儲かるビジネス」と化した
福岡県中間市や静岡県牧之原市で起こった通園バス園児死亡事件は、出欠確認が徹底されないことによって園児がバスに置き去りになった。この事件は、保育の基本中の基本である園児の出欠確認ができないほど、現場の質が劣化していることを意味する。
園児が置き去りにされる、不適切な保育が横行するなどの保育の質の低下は、保育士の労働環境の悪化が大きく影響しているのだ。
その背景にあるのは、安倍晋三政権下で待機児童対策が目玉政策となり、急ピッチで保育園が作られるようになったことだ。
公的な保育園は、2013年度の2万4038カ所から22年度は3万9244カ所へと大幅に増えた。安倍政権が「株式会社に受け皿整備を担ってもらう」という方針を打ち出したことで、営利企業による認可保育園は13年の488カ所から21年に3151カ所にまで急増した(厚生労働省「社会福祉施設等調査」)。
保育園の増加ペースに人材が追い付かないうえ、事業者のモラルが低下。保育を「3兆円を超える市場」と捉え、儲けるために参入する事業者が雨後の筍のように現れた。利益を出すために人件費が削られ、保育士の労働環境が劣悪になった。
人件費がほかの費目に流用できるようになった
かつて、認可保育園は公共性の高さから自治体か社会福祉法人しか設置・運営ができなかった。それが2000年の規制緩和によって、営利企業、宗教法人、NPO法人の参入が容認された。それと同時に、私立の認可保育園に支払われる運営費の使途の規制緩和である「委託費の弾力運用」が大幅に認められるようになった。
私立の認可保育園の運営費は「委託費」と呼ばれ、税金を主な原資とする。委託費の算定基準である「公定価格」では、人件費は基本的な部分だけでも全体の約8割を占める。人件費のほか、玩具や絵本を買うなど保育に要する「事業費」が約1割、職員の福利厚生費などの「管理費」が約1割必要だと国が想定し、委託費が各園に支払われている。
「委託費の弾力運用」が認められると、それまであった「人件費は人件費に使う」という使途制限が緩和され、人件費分を事業費や管理費へ流用するという各費目の相互流用のほか、同一法人が運営する他の保育園や介護施設への流用、施設整備費への流用などが許されるようになった。
ある程度の経営の自由度は必要だが、自民党政権下で規制緩和が繰り返され、今では委託費の年間収入の4分の1もの金額を他の費目に流用できるようになっている。そこに目をつけた事業者は、人件費を抑えて事業を拡大し、利益を得ていったのだ。