「あなたは何もしていない」

そんなことを考えていた冒頭発言の終了時、記者会見場が騒然となった。水色のワイシャツ姿の男性が記者席と知事らがいる舞台の間に突然現れ、アボット知事に向かって叫び始めたのだ。

「私はアボット知事に言いたいことがある。次の事件が起きないようにすべき時はまさに今だ。しかし、あなたは何もしていない」

突然の出来事に筆者はスマートフォンでひとまず動画撮影を始めた。ほかの記者たちも一斉に立ち上がって撮影を始めたので、筆者もその群れの中に入った。舞台の上にいた知事の側近たちからは「早く出て行け」という怒号が飛び交った。男性はすぐに講堂の出口に向かい、建物の外で記者団の取材に応じた。

男性の名前はベト・オルーク。1972年生まれの民主党若手のホープで、爽やかな弁舌から「オバマの再来」とも呼ばれる全国的に知名度の高い政治家だ。壇上のクルーズ氏とは、共和党地盤のテキサス州で上院議員の座をめぐって接戦を演じたこともある。そして2022年11月のテキサス州知事選挙ではアボット知事と争うことになる。メキシコとの国境の町エルパソが地元だ。エルパソでは2019年、先述の23人が亡くなる乱射事件が起きた。そのこともあり、オルーク氏の銃規制強化に対する思いは強いようだ。

会見の締めくくりも「神発言」ばかり

オルーク氏が高校の講堂を後にする時には、講堂の後方にいたオルーク氏の支持者と思われる男性が壇上に向かって、「ベトに発言をさせないのは憲法修正第1条違反だ。アメリカの恥だ」と叫んでいた。アメリカ合衆国憲法の修正第1条は、言論の自由などを定めたものだ。銃規制強化という反対意見に耳を貸さないアボット知事を批判した発言だった。

オルーク氏が記者会見場に入ってきてから退出するまで、わずか3分程度の出来事だったが、2022年11月の中間選挙では、テキサス州知事の座をめぐる銃規制論争が全米の注目を集めることを確信した。