研究者は価値を生み出す「アーティスト」なのか

【山崎】本物の歴史をビジネスに活かすにはどうすればいいか、と考えてはじまったのが「困難の時代に歴史を学ぶ・歴史から学ぶ アカデミア×ビジネス」です。山本さんが代表を務める「歴史家ワークショップ」と、当社「Warm Heart Cool Head」が共同開催するイベントで、22年にスタートしました。

僕は、歴史家はじめ研究者って「アーティストだな」と思うことがあるんです。研究を通して、新しい価値を生みだすところが。

どの世界にも“クレイジーなアーティスト”みたいな人たちがいて、新しい価値を創造してきたでしょ。過去になかったものをゼロからつくる。アカデミアの世界でいえば、本気の研究者は、みんなが気づかなかった事象を発掘して新しい視点を提示する。クリエイターといってもいいでしょう。まさにいま、ビジネスに求められている力ですね。

山本さんにも、僕はアーティスト、クリエイターを感じています。研究のテーマや内容はもちろんですけど、話し方などにも山本さんのクリエイションがあると思います。

ニュートンの研究も社会基盤なしには成立しなかった

【山本】ありがとうございます。うれしい気もするけれど、注釈もつけたくなってしまいますね。

そういう「孤高の天才が世界の本質をえぐり取る」というようなイメージを広めたのは、18世紀末以降に活躍したロマン主義の文人たちなんです。だから、「アーティスト」っていう概念自体が、実は200年ほど前にできた比較的新しいものなんですよね。

実際は、アーティストも社会的な基盤のうえで活動している。放っておけば天才的なクリエイターが自然と出てくるわけではなくて、社会基盤にサポートされるから、知的なイノベーションが起こるわけです。

この点は科学知識の歴史を考えるととてもよくわかります。例えばニュートンやボイルのような科学者が天文学や化学分野で成果を出すためにも、情報網から資金繰りや材料調達が不可欠です。充実した社会的ネットワークなしには科学革命も成立しえなかった。このことを、科学史研究者たちが明らかにしています。

それに、新しい知見もクリエイトするだけじゃ、新しい価値にはならない。新たに生み出された作品や成果を理解し、応用する人たちが必要です。

だから山崎さんがこうして僕たちの研究に関心を寄せてくださっているのは本当にうれしいんです。

僕たち研究者は、上場企業のように短期的サイクルで大きな成果(学問的知見)を生み出すというわけにはいきません。そういう中で、山崎さんの話を聞いていて、アカデミアの世界が社会の基盤づくりにかかわるには、経営的視点やプロフェッショナルな思考が不足しているんだなと思いました。

発想がまるで違うから、フィールドが異なる人と話すのはおもしろい。

山崎さんと一緒に企画・運営をしているイベントでは、毎回最先端で新しい歴史的知見を生み出している研究者をお招きしています。その研究の意義をビジネス界隈で活躍する方々と一緒に考え続けてみたいと思っています。

(文・構成=伊田欣司)
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