「○○っぽく見せる」ブランドでは続かない
【山崎】僕の会社では「ファクトを大切に」とよく言うんです。ビジネスでは、消費者にはウソをつかない、だまさないということが特に重要です。
企業のブランディングは、これまで「○○っぽく見せる」が中心だったと思います。あえて実態を隠し、秘密主義によってわざと誤解させた部分もありました。例えば、高級ブランドのカバン職人は、実際に会ったことがないから、名工と呼ばれるような腕前の持ち主だとイメージしがちです。立派なヒゲを蓄えたイタリア人とか。でも実際は、アジアの近代的な工場で働くふつうの職人さんたちかもしれないのです
マザーハウスの場合は、発展途上国で製品をつくっていることを前面に出しています。「こんな工場で、こんな人たちがつくっているんだ」と知ってほしいんですね。
製造だけでなく、企画、開発、販売、経理その他でもごまかさない。ブランドがさびつかないポイントはファクトだと思うんですね。裏表がないことが一番の正直だと。
マザーハウスが「社会起業家」を名乗らないワケ
【山本】ウソやごまかしがないのは大切なことです。ただ、何がファクトかという問題は難しいですね。
つまり、観点は無数あって、切り取り方も無限にある。何をどのように伝えようかと優先順位をつけるのは当然ですし、選択と意思決定の連続になる。完璧な事実とか、完璧な客観性とかいうものはありませんから、ファクトを語ることには倫理的・道義的責任が付きまとうのです。
【山崎】自分たちにとってウソ偽りがないファクトを伝える、ということですね。例えば、僕は自分たちのことを社会起業家と言ったことはないんです。僕にとってファクトじゃないからです。
僕たちのファクトは、バングラデシュに工場があり、300人の雇用を抱え、給料を払いつづけているということです。このファクトはしっかり伝える。
【山本】山崎さんたちが大切と感じるポイントをどう評価するか、それを社会起業と呼ぶのかどうかは社会に委ねていると。
【山崎】マザーハウスの事業に社会性があるか、社会課題を解決しているかを判断するのは僕らじゃないですからね。このスタンスは2006年の創業以来ずっと同じです。