パワハラの線引きを左右する「信頼関係」

しかし、パワハラだと言われることを恐れるあまりに部下の教育を放棄してしまっては、自社の将来に大きなマイナスになってしまいます。

厚生労働省が定めた、「パワーハラスメント防止のための指針」では、客観的にみて、業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示や指導については、職場におけるパワハラには該当しない、とされています。

これ自体、とても抽象的な記載ですが、様々な相談を受けたり、裁判例を見たりする中で痛感するのは、「これをしたらパワハラ」という明確な線引きは、人として絶対に許されないような凶悪な言動を除けば、ほとんどないということです。

しかし、一つ言えるとすれば、指導する側とされる側に、相互に信頼関係があるかどうかが、問題事案がパワハラかどうかの線引きの判断を左右する、ということです。

「バカヤロウ」を許容できるか、できないか

例えば、同じ「バカヤロウ」という文言で部下を叱責したとしても、信頼されていない上司Aから言われたらパワハラだと感じられる一方、信頼を得ている上司Bから言われたら「自分の成長のために言ってくれているんだ」と叱咤激励と感じられることもあります。

「バカヤロウ」といってもそれが叱咤激励と受け取られる、信頼される管理者になるには、日頃からそのような意識で人間関係を築き上げることが大切です。

そこで求められるのが、相手の「許容範囲」を見極めながら指導することです。

大前提として、ただ自分のストレスを解消するために、立場が下の者を理不尽に叱責するのは文字通りの単なるパワハラです。絶対にしてはいけません。

しかし、問題を改善し、社員の能力を伸ばすための「指導」は必要なことですし、部下も少々厳しく注意されたところで、「これは自分が悪いのでしょうがない」と思える許容範囲を持っているものです。

この許容範囲を広げるのが、先ほど触れた「信頼」です。

そして、信頼を得るには、良い仕事を背中で見せることも大切ですが、直接の対話も大切です。ときには仕事と関係ない話もできるような人間関係を築いていく。そうなれば、パワハラのリスクは軽減されるはずです。

そのための第一歩は「傾聴」です。自分では9割聞いているつもりでも、実際に聞いているのは5割、といった感覚で、社員の話に真剣に耳を傾けていただければと思います。