中国当局と国民との間にある「共犯関係」

――その一方で、死者数など都合の悪い情報については透明性を欠いているばかりか、病院の逼迫ひっぱく、火葬場の混雑、医療インフラが脆弱ぜいじゃくな農村の惨状については報道を差し止めています。中国サイバースペース管理局は旧正月の世論統制キャンペーンの一環として、「ネットで旧正月のお祝いムードを作り上げること」「帰省の見聞録などの形式で(農村の惨状など)社会の暗黒面を描くことを強く規制する」ことを盛り込みました。

中国人民はこの情報操作に完全にだまされているかというと、そうではない。一部で大変なことになっていることを知っている人は多いでしょう。ただ、政府がだまそうとしているといって怒るよりも、プロパガンダにのっかって自由な生活を満喫したほうが大多数の人にとってはハッピー。だから、あえて異を唱えないという「共犯関係」です。

「白紙革命」とその後のゼロコロナ対策転換で習近平総書記の権威は大きく傷ついたことは間違いありませんし統治の動揺につながるとの見方もありましたが、中国人民のしたたかさと共産党体制の盤石な面を感じています。

ゼロコロナ時代末期の「人民至上、生命至上」というスローガンにみられるような、コロナ死を一切許容しない極端なスタンスは、あくまでゼロコロナ政策が初期に成功していた時からの後付けであり、コロナにより大量の人々が亡くなっている西側諸国に対してのプロパガンダだったとみるべきでしょう。

そのプロパガンダに自身がとらわれた結果、上海ロックダウンや白紙革命につながってしまいましたが、現在のウィズコロナ路線が中国にとっての本来のスタンスだと感じます。

「再感染の可能性は低い」と発表されているが…

――というわけで、「世界がうらやむ中国のゼロコロナ」から「世界がうらやむ中国のウィズコロナ」にしれっと転換しているわけですが、このまますんなり日常に戻れるのでしょうか? 再感染やコロナ後遺症の問題は注目されていないのでしょうか?

再感染やコロナ後遺症は他国同様、中国でも今後、大きな問題となるでしょう。現時点では政府や専門家が打ち消しに躍起になっています。再感染については「感染後6か月以内は再感染の可能性は非常に低い」といったメッセージが打ち出されています。

コロナ対策の権威である鐘南山は「1年以内ならば再感染はない」とまで言っていましたし、後遺症についても「全身の倦怠けんたい感、集中力や記憶力の低下など、各国でコロナ後遺症とされているものは単なる心理的なストレスの問題だろう」とバッサリ切り捨てています。専門家は大丈夫と言っていたのに、との人々の不信が高まる可能性はあるでしょうし、その意味で筋の良い対応とは思えません。

不活化ワクチンより効果の高い、組み換えタンパク質ワクチンが認可されるなど、明るいニュースもあるのですが、「再感染の可能性は低い」というメッセージからワクチン接種の動きも低調に進みそうです。