「コロナ前の生活に戻れる」と感じた人が大多数

――100万人とは大変な規模です。2022年全年の中国の死者数は1041万人。少なくともその1割にあたる人数がコロナで亡くなる計算ですから。一時は解熱剤が不足したため、一人5錠などバラ売りしたとの悲惨なエピソードも。これで社会が成り立つのか不思議に思うのですが、中国から伝えられてくるニュースは「日常が戻った」「街ににぎわいが」というポジティブな情報が多い。それが不思議なのですが。

私も家族もコロナに感染しましたが、熱は1日2日で下がりました。大変と言えば大変でしたが、私と妻が感染するタイミングがずれたので助かりましたね。ほとんどの人にとっても命に関わるような状況ではなかったのでは。

一度感染した人は気にせず街を出歩くようになるので、12月下旬からは街に活気が戻ってきたと感じています。いわゆる第1波はすでに収束しつつあります。旧正月休みに繁華街にでかけたのですが、猛烈な人混みでした。体感ではコロナ前と変わらぬレベルです。

――多くの人がコロナに感染して苦しんだ、高齢者に多くの方が亡くなった、若くして亡くなった方もいる。そんな状況で怒りとか、混乱とかはないのでしょうか。すぐに日常生活に戻れるものでしょうか。

高齢者を中心に多数の方が亡くなっており、それらの方々の家族や近しい方々が深く悲しまれているのは確かでしょう。その一方で、中国の14億人の人口全体からするとごく一部です。中国の人口は日本の10倍以上ですが、80歳以上人口は2倍程度しかないので。

ですから、「コロナ前の生活に戻れる」という喜びを強く感じているのが圧倒的多数でしょう。私の周囲をみても3年ぶりに実家に帰省できることを喜んでいる人をはじめ、喜びの声のほうが断然多いです。

「習近平やめろ!」といった声も上がっていたが…

――高齢者の割合が少ない中国では身近に死や危機を感じる人が少ないというロジックはわかります。ただ、長く続くゼロコロナ対策にあれほど不満が蓄積し、昨年の11月には「習近平やめろ!」とのシュプレヒコールまで上がった抗議運動「白紙革命」まで起きました。そこからの落差はやはり不思議に感じます。

中国在住者へのヒアリングや各種報道を見ていると、中国共産党と中国人民の間に一種の「共犯関係」が築かれている印象があります。中国共産党は「ゼロコロナで踏ん張っている間にウイルスは弱体化した。今までの対策は正しかった」「一回感染すればもう安心。そしてすでに全人口の8割が感染したのだから、後は楽しく暮らしましょう」と、自分たちの成果を誇示し、社会には安心がもたらされたことを強調しています。

おっしゃる通りだと思います。「多数派の利益最大化のためには、少数派の犠牲も仕方ない」と高齢者の大量死を許容するのは、中国では広く受け入れられるスタンスでしょう。