なぜ、日本の少子化対策は失敗したのか

日本で少子化対策(もしあったのなら)が失敗してきた理由は多様で複雑である。ただ、欧米と同じような対策「だけ」ではあまり効果がないことだけは、証明されたと思っている。

まず、日本など東アジア諸国は、「子どもにつらい思いをさせたくない」意識が強い。例えば、子の友達がみんな持っている物であったら、「うちはお金がないから買ってあげられない」とは言いたくない。子の友達が大学に親のお金で行っているのに「大学や専門学校のお金は出せない」とは言いたくない。それゆえ、「子どもに十分な経済環境を与えられる環境」が将来にわたって見込めないなら、子どもを多く産まない、そもそも結婚はしないという選択がとられる。

少子化の直接の原因は、結婚しない人が増えたことにある。それも、豊かな環境で育てられる見込みのある相手が現れるまでは、親と同居して独身のまま待つという選択が取られるのであって、決して出会いが少なくなったという原因だけではない。ちなみに中国では、男性の親がマンションや車などを用意できないと女性は結婚に応じないことがよく言われるが、それも子どもを何不自由ない環境で育てたいという「親心」がなせるわざである。

日本でも1980年頃までは、「子どもに十分な経済環境を与えられる」と思う若者が多かったから、結婚や子育てに踏み切ることが出来た。親が相対的に貧しく、男性の収入が安定して増大する見込みがあったからである。

経済的に十分な相手でなければ恋愛もしない

しかし、1990年代から、若年男性の収入低下と格差拡大が顕著になった。いわゆる氷河期世代以降、非正規や定収入が見込めない若者(男女ともに)が増大したからである。つまり、産まれてくる子どもに十分な経済環境を与えられないなら、子どもを産むどころか、そもそも結婚しないという選択がとられたのだ。最近は、経済的に十分な相手でなければ、そもそも恋愛もしないという若者が増えている。かれらの多くは、親と同居しているから、当面は生活に不自由することなく、よい条件が整うまで結婚を先送りしているなか、年齢を重ねてしまうのである。

【図表2】交際している恋人(婚約者含む)がいる人の割合
生活費と給与推移グラフ
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これでは、ヨーロッパ型の少子化対策は空振りに終わる。「保育所整備」「育児休業」「男性の家事育児参加」は、そもそも「正規雇用者として結婚している女性」への対策だからだ。これらは「正社員共働き」層にとって有効な政策であることは認める。しかし、1990年に比べ「正規雇用共働き」の家族は増えてはいない。共働きで増えているのは、非正規雇用の女性であり、彼女らに「育児休業」の恩恵はほぼない。そして、大きく増えたのは、未婚女性、特に、非正規雇用の未婚女性である。未婚、既婚の「非正規雇用(+フリーランスや自営業など)」の女性に響く対策でなければ、出生率の大きな改善は見込めない(ちなみにヨーロッパではアルバイトでも育児休暇が取れる国が多い)。